詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

未知野道「むんわん春の底が抜け」

2018-07-02 10:35:30 | 詩(雑誌・同人誌)
未知野道「むんわん春の底が抜け」(「森羅」11、2018年07月09日発行)

 未知野道とは誰か。「むんわん春の底が抜け」のなかで「告白」している。

『私』の内部は
無限の平仮名の集積だ

 ひらがなで書き続ける詩人。池井昌樹が『私』である。
 そのひらがなを、未知野は、どんなふうにとらえているか。

春の鶏の毛のような
それら平仮名一つびとつが
生ぬるい吐息をついたりして
『私』の内部は 底知れぬ
黄色い空気が充満している

 私は中学生のころの池井を思い出す。「雨の日の畳」(だったと思う)。その作品にはやはり「生ぬるい」ものがあふれていた。「吐息」であったかどうかは、はっきり覚えていない。その「生ぬるい」ものは「黄色い」。
 人には好みというものがある。私は「黄色」という色自体は嫌いではない。(なんといっても、私には黄色が似合う。)だが、「黄色/黄色い」という音はとても不気味に聞こえ、嫌いである。特に池井の、ゆったりした弱音で「きいろい」という声が発せられると、ぞっとする。それこそ「底知れぬ」恐怖というものだ。
 「雨の日の畳」を読んだとき、私は、まだ池井の声を知らない。池井の「体型」も知らない。だが、私は、自分とはまったく異なる「肉体」の存在を感じ、ぞっとしたのだ。気持ちが悪い。
 未知野(池井)は「内部」ということばをつかっているが、私には「内臓」と読めてしまう。「内部」というと「精神的」なものも指すが、私が感じるのは「精神」ではない。「内臓」そのものである。
 「内臓」なんて、ふつうは、見えない。見えないから安心しているが、見るときっと「気持ち悪い」。それが動いている感じがする。
 こんなに気持ちが悪いことばが詩なのか。
 気持ち悪さが「空気」になって「充満して」、私はいまでもいやな気持ちになる。気分が悪くなる。「雨の日」ならば、家は閉め切っている。部屋は閉ざされている。密室だ。そこに「黄色い」息が充満してくる。
 わあああああ、窒息してしまう。息苦しい。逃げ出したい。

 でも池井(未知野)は、こんなふうに言う。

『私』の内部の平仮名は
すなわち私自身であるから
恐ろしいことなど少しもなく
恐ろしくてもそのものは
自分自身であるのだから

 やっぱり「内臓」だな、と思う。「内臓」は自分自身。「恐ろしいことなど少しもなく」と言ったあと、「恐ろしくてもそのものは/自分自身である」と言いなおしているのは、池井(未知野)にも、なんらかの「畏怖」があるからかもしれない。
 「肉体(いのち)」は池井(未知野)の知らないところから、池井に引き継がれ、つづいている。それが「内部(内臓)」になって、池井を生かしている。異化している、かもしれない。

 気持ち悪いぞ、池井。
 こんな気持ち悪い詩は嫌いだぞ、池井。

 中学生にもどった気持ちで、私は、またこう書くのである。







*

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