詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

花崎皋平『チュサンマとピウスツキとトミの物語他』

2018-07-07 11:32:20 | 詩集
花崎皋平『チュサンマとピウスツキとトミの物語他』(未知谷、2018年05月25日発行)

 花崎皋平『チュサンマとピウスツキとトミの物語他』にはアイヌの人と文化、歴史が書かれている。
 「アネサラ シネ ウプソロ」(あねちゃ ひとつの ふところ)という作品に、こういう部分がある。

名づけることは
復活させること
死んだ人たちを生き返らせ
これから生まれてくる人たちにつなぎます

 「名づけること」を語ること、詩を書くことと読み直すと花崎がやっていることにつながるだろう。アイヌとともに生きて、その結果身についたものが、いま、花崎のことばを動かしている。
 この連は、こう言いなおされている。

名づけることは
与えられた名をはずし
奪われた名をとりもどし
自分たちの言葉で あたらしく名づけ直すこと

 「名づける」は「名づけ直す」と言いなおされている。
 なぜか。
 「与えられた名」は「与えられた」ではなく「押しつけられた」である。だからこそ、それを外し、かつてあった「名」をとりもどすということが「名づける」という動詞の運動になる。「奪われた名」をとりもどし、自分のことばで「名づけ直す」。
 最初に引用した部分の「死んだ人たち」は「いのちを奪われた人たち」と読み直されなければならない。自然に死んだのではない、という抗議、怒りを読み取らないといけない。
 これは、さらにこう言いなおされる。

名づけることは
いのちの泉を掘り当てること
祝福しましょう その名を

 「与えられた名をはずす」「奪われた名をとりもどす」ことが「いのちの泉を掘り当てること」。最初に「名づけた」ひとは、そこに「いのち」をつかみとっていた。「いのち」に「名」をつけたのだ。
 それはまた「生まれてくる人たち」の「名」になる。「祝福」が必然的に含まれる。
 そして「名」には「生き方」が含まれている。「いのち」の育て方が隠されている。
 その「生き方」を要約することはできない。だから、ひとつ、例をあげておこう。「序章 プロニスワフ・ピウスツキ」にこんな行がある。

私たちにとっては 風は生き物
夜のあいだ 叫び声をあげ 走りまわっていた風の子に
朝になって母がたずねる
「どこでなにをしていたの」
「追いかけていたんだレプンカムイ(シャチ)を
からかっていたんだスナリ(狐)を
針のような松の葉のあいだを
くぐって くぐって 遊んでいたんだ」
「さあ、ごはんを食べて ひと休みしなさい
お日さまが歌いだしているよ」

 「風は生き物」の「生き物」を「生き方」と読み直せば、それが「いのち」の形になる。言いなおすと「生きる」という動詞そのものになる。
 花崎は「生きる」という動詞を受け止め、一緒に生きている。






*

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26 草地よ(嵯峨信之を読む)

2018-07-07 00:11:29 | 嵯峨信之/動詞
26 草地よ

草地よ
おまえが隠しもつているものは何か
その答えは生まれることもなく
子供たちただ黙々と坂を下りて街の方へ消えていつた
 
 「何か」とは、何と名づけることができるか、と読むと、この作品は「25 岬から牧場への道」につながる。
 「名づける」は、より詳しくいえば「何と」名づけるか、である。
 それはまた、「名」を生み出すことでもある。
 「名」が「答え」であるか、どうかは、わからない。それは、すぐには判断できないものだと思う。しかし、「名」を呼べば「こたえる」ものがある。「答え」は「こたえる」という動詞の中に隠れている。「こたえる」ものがいれば「答え」なのだ。

 子供が消えたとき、残るのはなんだろうか。「草地」か、「子供」が消えていったという「こと(事実)」か。それとも、まだ「ことば」になっていない何かか。




*

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