詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

福岡県警で体験したこと

2018-07-21 12:25:32 | その他(音楽、小説etc)

 5月下旬、福岡市天神の歩車分離交差点(岩田屋、ビオレの対向二車線の交差点)を自転車に乗って渡った。そのとき福岡市中央警察署の交通指導課の職員(三人いたが、責任者はM)に停められ、反則キップを切られた。歩行者の前を横切って、歩行者の歩行を邪魔した。危険行為である、とのことである。まわりの歩行者から「危ない」とかの注意を受けたわけではない。私は自分自身の身の危険を心配するタイプだから、人が近いと止まる。でも、背後を見て運転しているわけではないし、横断歩道を自転車を引かずに渡ったのは事実なので、指導を受けながら、反則キップというものを切られた。
 氏名、年齢、住所、連絡先、職業を聞かれた。身分証明書の提示を求められた。私は目が悪いので運転免許証をもっていない。健康保険証でいいか、と確認して保険証を提示した。
 それから約五十日後。今週の火曜日の昼過ぎ。Mから自宅に電話があった。「健康保険証では身分証明にならないので、顔写真付きのものが必要。さらに住所確認のために公的機関が発行している郵便物も必要」という。
「パスポートならある。パスポートには住所も書いてある」
「手書きのものは、だめ。公的機関が発行している郵便物が必要。いつ中央署来れるか」「郵便物は探してみないとわからない。今週中に行くようにする」
「木曜日に来れないか」
「わからない」
「金曜日には行けると思う」
「金曜日は休みだ。木曜に来れないか」
「わからない。金曜の二時までには行く」
(最後のやりとり、「木曜日に来れないか」は何回かくりかえした。)

 水曜日に時間がとれたので、中央署に行った。そのとき、疑問に思っていたことがあったので、尋ねた。疑問は二点。
(1)なぜ、一か月半以上もたって、こういう連絡があるのか。ほんとうに必要なものなら、すぐに必要とわかるはずだ。
「仕事が多くて、時間がかかってしまった」
 どんな仕事の処理をしているか知らないが、反則キップが要件をそなえているかどうか、点検するのに一か月半かかるとは信じられない。これから先、仕事はどんどん蓄積して雪、処理できないものが出てくるのではないか。
(2)なぜ、写真付きの身分証明書が必要なのか。反則キップを切ったとき、保険証を提示し、警官はそのメモをとっていたし、写真も撮っている。印鑑がわりに指紋押捺もしている。
「顔写真がないと本人かどうか確認できない。住所を確認できない」
「写真は、反則キップを切ったときに撮っている。家に電話をしてきて、それに応じて警察署へやってきている。顔もおなじだろう。それで十分ではないか。もし、免許証と同じように、顔写真と住所が明記された証明書が必要というのであれば、それを明示している文書を見せてほしい」
「文書はない。常識だ。住所の確認ができない」
「住所の確認ができないというのであれば、自宅へ来たらどうですか? 私がほんとうに住んでいるかどうか、確認したらどうですか?」
 郵便物なら借りてくることもできるから、私はそう質問した。すると「約束は金曜日だ。きょうは水曜日で約束と違う。きょうは私(M)は休みだ。前もって、来ると電話連絡したか」という。たしかにMは、ブルーの制服ではなく、白いカッターシャツを着ていたが、休みであるかどうかは、確認していない。(中央署についてから、私がMと会うまでには十五分もかかっていない。Mがどこに住んでいるか、私はもちろん住所を知らないが、呼び出されて出てくるには、あまりにも短い時間である。)
 それで、金曜日に出直すことになった。ばかばかしいが、こういう対処の仕方が警察(お役所)ということなのだろう。
 (この間に、「私は横断歩道を自転車に乗って渡ったが、歩行者のじゃまをした意識はない。歩行者の誰からも抗議を受けてもいない。歩行者と私の距離はどれくらい離れていたのか」「一㍍くらいだ」というやりとりがあった。私は目がよくないので、他人の間をすりぬけるということはしない。一㍍では、自分自身に危険を感じ、すり抜けない。でも、そこで目が悪いというようなことを言うと、「目が悪いのに横断歩道を自転車で走るのか」と言われそうなので、それは言わなかった。)

 金曜日。もう一度、同じやりとりをした。
「なぜ顔写真付きの身分証明書が必要なのか。保険証ではだめなのか」
「保険証の住所は手書きだし、保険証が本人のものであるかどうか顔写真がないとわからない。他人のものかもしれない」
 つまり、私が他人の保険証を盗み、もっていると疑っているわけである。
「疑っているわけではないけれど、他人のものを盗んでもっているひともいる可能性はある」
 これって、ふうつの感覚では盗んだものをもっていると疑っていることになる。警察では「疑っているわけではないけれど」と前にことばをつければ、疑ったことにはならないらしい。
「保険証を提示したとき、メモを取っていた。保険証の発行先に確認したのか」
「確認していない」
 なにもせずに、一方的に保険証は窃盗した可能性がある。だから顔写真付きの身分証明書を提示しろ、ということである。
 それに関する「運用の決まり」については、あいかわらず説明がない。
 いったい「反則キップ」に何を書いたのか。私はキップを切られたとき、特に気にもしなかったが、気になったので、「あのとき作成した反則キップを確認したい。見ることができるか。見せてほしい」と言った。身分確認をどうやってしたか、それをどう記入しているか知りたかったからである。
 「もってくる」とMはその場を離れたが、もどってきたときは上司らしき人と一緒で、もちろん反則キップはない。何も書かれていない状態の反則キップの束をもっていた。

 (なんだ、これは。)

 それからのやりとりは、Mは状況の補足説明がもっぱらで、上司が相手。
「なぜ顔写真付きの身分証明書でないとだめなのか」
「人物が特定できない」
「もし、免許証もパスポートももっていないとどうするのか」
(返事がない。)
「マイナンバーカードか」
(返事がない。私の質問の意味がわからなかったみたいなので、つけくわえた。)
「写真付きのマイナンバーカードをもっていないひとは、それを発行してもらってから、身分証明書にするということか」
「そうだ」
「発行には時間がかかるが、それまで確認を松ということか」
 これには明確には答えで、
「顔写真と住所をその場で確認できればいい」
「公的機関の発行した住所のわかるもの、郵便物が必要というのはなぜか」
「パスポートがあればいい。」
「公的機関の発行した郵便物と二種類必要だ念を押された。役所の発行している郵便物をすぐに見つけ出せるかどうかわからない。だから、いつ行けるかすぐにはわからないと答えた」
「パスポートがあればいい。二種類と伝わったのは説明の仕方が悪かったのかもしれない役所ではなく、電気やガスの郵便物でもいい」
「電気、ガスは企業でしょ? 公的機関ではない」
「公的機関に準じる」

 これはしかし二重に奇妙な論理である。パスポートは外務省が発行している。しかし、発行段階では住所は無記名である。住所は自分で書く。私の保険証も、住所は私の手書きである。そして保険証は会社が発行しているものだが、保険の運用には国家財政も絡んでいるのではないか。それが認められないのはなぜなのか。どうやら、ほんとうの住所かどうかは問題にしていないように感じられる。
 しかも、反則キップを切られたとき、私はすでに自転車と一緒に写真を撮られている。何がほんとうに必要なのか。何を求めているのか。なんだか、ばからしくなった。で、以下は、警官がさらにどんな嘘をつくか、その「証拠」として書いておく。
 (パスポートの手書きの住所は、すでに「証明書」として認めていないところに、東京都がある。以前は戸籍抄本を取り寄せるときの身分証明としてパスポートもOKだったが、いまは受け付けていない。年金のための書類を揃えるときに、パスポートのコピーを送ったら、パスポートはだめ、ということだった。ただし、二度手間をかけるまではないと判断したらしく、「以後はだめ」ということわりつきで、そのときは受け付けてくれた。五年以上前の話である。)

「なぜ水曜日に来たら、約束と違うということになるのか」
「金曜日の二時までに来ると言った」
「公的機関の発行した郵便物はすぐにはわからない。遅くても金曜日の二時と言った。その前に何度も木曜日に来れないかと言ったのはなぜか。なぜ、せかしたのか」
「せかしていない」
「一度ではなく、三度、木曜日を指定された。そんなに急いでいるのならと、水曜日に来たら約束と違うと言われた」
「金曜日だと思っていた」
「金曜日は休みだから、木曜日にと言った。単なる事務手続きだろうと思ったから、担当者がだれであろうがかまわないと思い水曜日に来た」
「金曜日は休みではない。水曜日と事前にわかっていれば、別の人間に引き継ぎをした。木曜日と言ったのは、木曜日なら時間的に余裕があったからだ」
 なんだ、自分の都合か。
 上司がいるので、嘘がつけなくなったらしい。少しかわいそうになってしまった。Mとしては保険証で十分だと思い、対処した。ところが上司からだめだと言われ、顔写真付きの証明書、公的機関の発行した郵便物と言われるままに伝えたということだろう。
 顔写真付きの証明書で本人であるかどうか確認できればいいと言っていたはずなのに、「私は確認しましたが、上層部が納得しないので、パスポートをコピーさせてください」と頭まで下げる。
 約束は金曜日、水曜日に来ても受け付けない、と言ったときとは様変わりである。
 あまりにもかわいそうだ。

 しかし、なぜ、顔写真付きの証明書が必要なのか、いまだにわからない。
 というのも、私は以前車と接触したことがある。進行方向を右折したかった。歩道がふさがり、赤信号で車道の車も止まっていた。中央線よりを自転車で走り抜け、まだ青の横断歩道を渡り右折しようとした。ところが、突然車が動き、びっくりしてバランスをくずした。信号がかわるのを見越してエンジンをかけたのだ。
 このとき私は調書(?)をとられた。免許証はもっていない。会社の名刺もない。でも保険証はもっていた。それを警官は控えた。その後、顔写真付きの住所を証明するものを求められたことはない。示談で処理したとはいえ、実際に事故を起こしているに(保険会社は当然警察に事故内容を問い合わせている)、顔写真付きの身分証明書も要求されなければ、写真も撮られていない。保険が社も写真などは要求して来ない。電話で話しただけである。
 私は車を運転しないから知らないのだが、たとえば駐車違反をする。そのとき反則キップを切られる。免許証で本人かどうかを確認する。反則キップには免許証の番号は記入するだろうが、顔写真を同時にとって添付するということはないだろう。顔写真がなくても上司は納得するだろう。免許証の番号だけでは、ほんとうにその人間が違反したかどうかわからない。免許証が盗まれたものかもしれない、などとは疑わないだろう。(ときどき、免許不携帯のひとが他人の名前を語ることがあるね。)
 しかし、私は自転車と一緒に写真を撮られ、健康保険証を提示し、電話で呼び出しを受け、警察署へ行ったにもかかわらず、保険証が本人のものかどうかわからない、住所がほんとうかどうかわからない、顔写真付きの身分証明書が必要だと言われた。私はたまたまパスポートをもっていたが、もっていなければ「顔写真付きのマイナンバーカード」が必要だと言われた。そういう運用になったのかもしれないが、それならそれで「通達文書」くらいありそうである。「常識だ」というのは、とても変。
 上司が下っぱいじめをし、下っぱが市民にやつあたりしているということかも。やつあたりしているのが上司に発覚し、おどおどしている。
 こんなことで、ほんとうに市民の安全は守れる? 横断歩道を自転車で走り抜けるというとても危険な違反をした人間がいうことではないかもしれないけれど。私のために危険にさらされた人、大丈夫かなあ。あれから五十日、ショックが心臓発作をひきおかした、ということにでもなっていないだろうか。そのとき、損害賠償は、どうなるかなあ。 




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高橋睦郎『つい昨日のこと』(12)

2018-07-21 09:35:00 | 高橋睦郎「つい昨日のこと」
12 怒り イリアス序説

女神よ 怒りを歌え とは 聴衆よ 怒りを見つめよ ということ

 この一行目は、非常に批評的だ。「ということ」という言い方が、怒りを客観的に見つめている印象を誘う。
 そのせいだろうか。余分なことを考えてしまう。
 「女神よ 怒りを歌え」とは女神に対する命令なのか。「聴衆よ 怒りを見つめよ」は聴衆への命令なのか。女神にも、聴衆にも命令する、その人は誰なのか。上演される「悲劇」の演出家だろうか。演出家ならば、女神を演じる役者への命令が第一だが、そうではなく聴衆(観客)に対する命令(怒り)の方が強い。
 女神に対する命令と、聴衆に対する命令の間にある「とは」は、「言い直し」をあらわしている。女神に命令しているように見えるが、そうではなく、聴衆にこそ命令している。「舞台/劇場」が遠ざかり、奇妙なねじれに入り込んでしまう。

自らそうなると知りつつも あらかじめ消すことのできないのが
怒りという炎

 「意味」はわかるが、怒りに直接触れている感じがしない。

身を入れて聞き入りながら 聴衆は自分のこととは悟らない

 高橋は演出家になって、聴衆に「悟れ」と怒っているのだが、おもしろくない。
 「悟らない」(悟れない)からこそ、ことばが動く。そして、それこそが「聴衆(人間)」の「悟り(醍醐味)」なのだ。悟ったらことばはいらない。聞く必要もない。
 最終行の「身を入れて聞き入りながら」の「身を入れる」ということが聴衆の「悟り」だ。ことばのなかに「身を入れる」。身がなくなる。「聞き入る」の「聞く」という動詞だけが存在する。動詞になってしまう。
 書き出しの「見つめる」とは「見入る」こと。「見る」という動詞のなかに身(肉体)を入れてしまうこと。つまり、怒りの肉体になることだ。「悟り」を突き破って「怒る」という動詞そのものになるというのが、観劇の醍醐味ではないだろうか。

つい昨日のこと 私のギリシア
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