詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

岡島弘子『洋裁師の恋』

2018-07-06 10:53:07 | 詩集
岡島弘子『洋裁師の恋』(思潮社、2018年07月01日発行)

 岡島弘子『洋裁師の恋』は、巻頭の「息をする」がもっとも印象に残る。

光と風の中から つまみ上げると
息を吹きかえすボタン
糸と針で穴をうめると
もうひとつ息をする
前身ごろのはしに
ひとつひとつぬいつける
あふれそうなものを おしとどめるように
きえ入りそうなものをひきとめるように
さいごの糸をむすび切ると
その旅をおえて
ボタンはブラウスの一部になる

 ブラウスをつくっている。最後の過程がボタンをつける仕事なのだろう。このあと詩は、そのブラウスが女性の肉体をつつみながら、同時に肉体を誇張する様子を書いている。誇らしげに。与謝野晶子風に。
 さらに思いは広がり、ブラウスのボタンを外す指、ブラウスの下からまた肉体があらわれる夢を描く。与謝野晶子風に。
 いかにも「女性らしい」夢である。「女性らしすぎる」ところが、ちょっと気がかりではある。型にはまっている、という気がしないでもない。
 でも。

ボタンが守るものは
女体のかたちをしたみず
そして息をひとつ またひとつ
ボタンは貝であったころの
うみの呼吸をとりもどす

 最後に出てくる「貝」が美しい。ボタンの材料である貝。それはすでに貝の形を形をしていないが、たしかに貝からつくられたボタンもある。それが海へとつながっていく。
 ブラウスのボタンをとめ、胸を抑えて、息を抑える。ボタンを外して息を拡げる。胸を拡げる。呼吸する。
 それにあわせて、ブラウスのボタンが呼吸する。海を思い出す。それはふるさとなのか、それともこれから行くところなのか。

 ことばの呼吸に無理がなく、とても自然に読むことができる。知らない間に、遠くへ来てしまったという感じがいい。

 「こごえた初恋」という、あまりおもしろくないタイトルの、けれどとてもおもしろい詩がある。(たぶん、同人誌に発表されたとき、感想を書いたと思う。)
 そこには「ハエの皮膚呼吸」ということばが出てくる。
 「呼吸」(息をすること)を大事にしてことばを動かしている。
 「呼吸」(息をする)ということばを手がかりに読み直すと、岡島の詩は、肉体に静かに近づいてくる。肉体を遠くへつれて行ってくれる。









*

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洋裁師の恋
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思潮社
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「申請書指南」とは

2018-07-06 08:29:07 | 自民党憲法改正草案を読む
「申請書指南」とは
             自民党憲法改正草案を読む/番外217(情報の読み方)

 2018年07月06日読売新聞朝刊(西部版・14版)の一面。

文科前局長、申請書指南/私大支援 選定されやすく

 という見出しで、裏口入学(口利き入学?)の「背景」を書いている。文科前局長のしたことが、贈賄側(裏口入学をすすめた側)への便宜供与にあたるかどうかを、東京地検は調べているという。
 で、その「便宜供与」だが。

 関係者によると、同大(東京医大)は2017年、独自色のある取り組みを行う私大を資金面などで支援する同省(文科省)の「私立大学研究ブランディング事業」に応募。臼井(東京医大)理事長から依頼を受けた佐野容疑者(文科前局長)は、事業体制やブランド戦略などをアピールできる申請書の書き方を同大側に指南したという。

 うーん、この「構造」って、加計学園獣医学部の問題に何か似ていないか。
 獣医学部新設のための申請書(?)はどうあるべきなのか、安倍の側近が「指南」していなかったか。愛媛県や今治市に対しても、熱意をみせないとだめ、というようなことを語っていなかったか。
 安倍の側近がやれば「便宜供与」にはならなくて、文科省の局長がやれば「便宜供与」になるのか。
 息子の大学合格という「見返り」がはっきりしているから「便宜供与」なのか。
 安倍に、どういう「見返り」があったか特定できないから「便宜供与」ではないのか。

 安倍はある段階で「贈賄行為はない(収賄されていない)から問題はない」と主張したように記憶しているが、これはようするに「贈収賄」が発覚しないかぎりは、「便宜供与」ではないと言い張れるということか。

 それにしてもねえ。
 息子を大学に入れたくて「申請書指南」をする、それにこたえて一人の人間を合格にしてしまうのと、息子を獣医学部に入れたいために獣医学部をつくってしまう、そのために安倍を利用する(少なくとも大学側は、安倍の名前を利用したと語っている)、さらにそういう大学を設立するために安倍の側近が動く、国の予算が支出されるのと、どちらが大問題かなあ。
 裏口入学は問題だが、裏口入学をさせないために大学をつくる、そのための金を国や自治体から引き出すというのは、問題ではないのか。

 叩きやすいものを叩き、叩くと反撃される恐れがあるものには目をつむる、ということが起きてはいないか。

詩人が読み解く自民党憲法案の大事なポイント 日本国憲法/自民党憲法改正案 全文掲載
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