岡島弘子『洋裁師の恋』(思潮社、2018年07月01日発行)
岡島弘子『洋裁師の恋』は、巻頭の「息をする」がもっとも印象に残る。
ブラウスをつくっている。最後の過程がボタンをつける仕事なのだろう。このあと詩は、そのブラウスが女性の肉体をつつみながら、同時に肉体を誇張する様子を書いている。誇らしげに。与謝野晶子風に。
さらに思いは広がり、ブラウスのボタンを外す指、ブラウスの下からまた肉体があらわれる夢を描く。与謝野晶子風に。
いかにも「女性らしい」夢である。「女性らしすぎる」ところが、ちょっと気がかりではある。型にはまっている、という気がしないでもない。
でも。
最後に出てくる「貝」が美しい。ボタンの材料である貝。それはすでに貝の形を形をしていないが、たしかに貝からつくられたボタンもある。それが海へとつながっていく。
ブラウスのボタンをとめ、胸を抑えて、息を抑える。ボタンを外して息を拡げる。胸を拡げる。呼吸する。
それにあわせて、ブラウスのボタンが呼吸する。海を思い出す。それはふるさとなのか、それともこれから行くところなのか。
ことばの呼吸に無理がなく、とても自然に読むことができる。知らない間に、遠くへ来てしまったという感じがいい。
「こごえた初恋」という、あまりおもしろくないタイトルの、けれどとてもおもしろい詩がある。(たぶん、同人誌に発表されたとき、感想を書いたと思う。)
そこには「ハエの皮膚呼吸」ということばが出てくる。
「呼吸」(息をすること)を大事にしてことばを動かしている。
「呼吸」(息をする)ということばを手がかりに読み直すと、岡島の詩は、肉体に静かに近づいてくる。肉体を遠くへつれて行ってくれる。
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評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』を発行しました。190ページ。
谷川俊太郎の『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
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岡島弘子『洋裁師の恋』は、巻頭の「息をする」がもっとも印象に残る。
光と風の中から つまみ上げると
息を吹きかえすボタン
糸と針で穴をうめると
もうひとつ息をする
前身ごろのはしに
ひとつひとつぬいつける
あふれそうなものを おしとどめるように
きえ入りそうなものをひきとめるように
さいごの糸をむすび切ると
その旅をおえて
ボタンはブラウスの一部になる
ブラウスをつくっている。最後の過程がボタンをつける仕事なのだろう。このあと詩は、そのブラウスが女性の肉体をつつみながら、同時に肉体を誇張する様子を書いている。誇らしげに。与謝野晶子風に。
さらに思いは広がり、ブラウスのボタンを外す指、ブラウスの下からまた肉体があらわれる夢を描く。与謝野晶子風に。
いかにも「女性らしい」夢である。「女性らしすぎる」ところが、ちょっと気がかりではある。型にはまっている、という気がしないでもない。
でも。
ボタンが守るものは
女体のかたちをしたみず
そして息をひとつ またひとつ
ボタンは貝であったころの
うみの呼吸をとりもどす
最後に出てくる「貝」が美しい。ボタンの材料である貝。それはすでに貝の形を形をしていないが、たしかに貝からつくられたボタンもある。それが海へとつながっていく。
ブラウスのボタンをとめ、胸を抑えて、息を抑える。ボタンを外して息を拡げる。胸を拡げる。呼吸する。
それにあわせて、ブラウスのボタンが呼吸する。海を思い出す。それはふるさとなのか、それともこれから行くところなのか。
ことばの呼吸に無理がなく、とても自然に読むことができる。知らない間に、遠くへ来てしまったという感じがいい。
「こごえた初恋」という、あまりおもしろくないタイトルの、けれどとてもおもしろい詩がある。(たぶん、同人誌に発表されたとき、感想を書いたと思う。)
そこには「ハエの皮膚呼吸」ということばが出てくる。
「呼吸」(息をすること)を大事にしてことばを動かしている。
「呼吸」(息をする)ということばを手がかりに読み直すと、岡島の詩は、肉体に静かに近づいてくる。肉体を遠くへつれて行ってくれる。
*
評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』を発行しました。190ページ。
谷川俊太郎の『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
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ここをクリックして2000円(送料、別途250円)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
「詩はどこにあるか」4月の詩の批評を一冊にまとめました。
詩はどこにあるか5、6月号注文
オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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