金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

TPPの影響は経済全体では限定的、ただし勝ち組は農業、負け組は工業~米ITCの予測

2016年05月22日 | 国際・政治

先週米国の国際貿易委員会ITC(超党派的な政府の調査機関)は、TPPが批准された場合の米国のGDPや産業に与える影響をまとめたレポートを発表した。

それによると批准された場合の米国のGDPや雇用に与える影響は限定的なものだ。

レポートによるとGDPは2032年までに427億ドル(0.15%)増加し、フルタイムの仕事は128千人純増する。

産業セクター別では2032年までに、ビジネス・サービスでは116億ドル産出量が増加し、農業・食品では100億ドル増加する。また小売り・卸売りの増加は74億ドルと予想される。

一方産出量が減ると予想されるのは、電子部品(37億ドル)、金属・金属製品(37億ドル)などで工業全体としては108億ドルの産出量の減少が予想される。

TPPについては、11月の大統領選挙の候補と予想される民主党のヒラリー・クリントン、共和党のドナルド・トランプともTPPに反対しているので、大統領選挙が終わるまで議会で審議されることはないだろう。ただITCがこのタイミングでTPPの影響に関するレポートを発表した背景には、オバマ政権が議会内のTPP支持者を増やそうとする試みと考えてよいだろう。

来週の伊勢志摩サミットに出席するオバマ大統領にはG7以外に二つの大きなミッションがある。一つは広島訪問でもう一つはベトナム訪問だ。これは日本とベトナムとの連携を強化することで、東太平洋において軍事的プレゼンスを高める中国に対して、戦略的な橋頭堡を構築するためだ。

オバマ政権が特に期待を寄せているのはベトナムとの関係強化だ。オバマ政権はベトナムに対する武器輸出規制を緩和するのではないか?という観測もある。

またTPPが批准されるとベトナムからの工業製品の輸出が増えることで、ベトナム経済は10%程度拡大すると予想されている。ベトナムがTPPで受ける恩恵は極めて大きいようだ。

さてITCのレポートが米国の選挙民や議会メンバーにどのように解釈されるかは分らない。

全体的に米国経済成長や雇用に与える影響はそれほど大きくなく、むしろ業界別にプラスマイナスが大きくでるので止めるべしという意見が強まるかもしれないし、計数化されていない中国への抑止力として、批准すべしという意見をサポートするかもしれない。

ただし「中国への抑止力」という狙いは計数化できないのでどれ程訴求力があるかは疑問だが。

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米大統領選、誰が勝っても米国の内向き志向は強まるだろう

2016年05月08日 | 国際・政治

先週土曜日共和党指名候補争いでドナルド・トランプ氏の指名獲得が確実になった。これで民主党のヒラリー氏と共和党のトランプ氏の一騎打ちとなるが、不人気が68%と高いトランプ氏の方が不人気度52%のヒラリー氏より不利だという見立てがあるようだ。

今回の大統領選挙は人気投票より不人気投票になるのだろうか?

現時点で私はどちらが勝つかという見通しは持っていないし、今後発生する可能性がある多くのイベントに選挙結果は左右されると思う。まず共和党保守派がトランプ氏支持にまわるかどうかという点が不明だ。

不人気度が高いトランプ氏だが、仮に大統領選挙の前に大きなテロが起きた場合、テロに対する強硬姿勢を打ち出しているトランプ氏の人気が高まる可能性は大きい。従って今の時点で誰が勝つか?という予想を述べてもそれほど意味はないだろう。

ただはっきりしていることはヒラリー氏が勝ってもトランプ氏が勝っても米国の内向き志向は強まるだろうと私は考えている。

ピューリサーチセンターが5月5日つまり共和党候補がトランプ氏に絞られる直前に出した世論調査レポートがある。

タイトルはPublic uncertain, divided over America's place in the world「世界におけるアメリカの立ち位置について世論は分裂」というものだ。

アメリカの立ち位置というのは、防衛・安全保障に関わるものと経済活動に関わるものがある。

ピューの世論調査によると、57%のアメリカ人は米国は自国の問題に取り組むべきで、よその国の問題はよその国に任せておけばよいと考えている。一方他国の問題の解決にも手助けするべきだと考えている人は37%だった。

また41%の人はアメリカは世界の問題解決に関与しすぎていると考えている。一方関与が足りないと考えている人は27%にとどまり、適正範囲の関与であると考えた人は28%だった。

党派別にみると、共和党支持者の62%は米国はよその国に関わらずに自国の問題解決に当たるべきだと考え、民主党支持者でも47%の人は同様の考え方を持っていた。

米国が世界経済との関係を深めることについて49%の人は低賃金を招き、雇用が奪われる可能性が高まるとして否定的な見方を示している。

一方世界経済との関係を深めることは、米国が新しい市場を開拓し、成長機会を見いだすのでプラスになると考えた人は44%にとどまった。

トランプ氏支持者の65%は米国が世界経済を関係を深めることをネガティブに見ていて、ポジティブに見る人は31%に留まる。

ヒラリー氏支持者の55%は世界経済と関係を深めることをポジティブに見ていて、ネガティブに見る人は37%だ。またサンダース氏支持者の間では意見は拮抗している。この問題は大統領選挙の大きな争点にはならないのではないだろうか?

私は誰が大統領になっても、米国の内向き志向は強まるのではないか?と考えている。その前提に立って日本の外交・経済政策を考えるべきではないだろうか?

 

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トランプ人気が衰えないのは、政策よりもレトリックへの共感?

2016年03月25日 | 国際・政治

米共和党の有力大統領候補ドナルド・トランプの人気が衰えない。

最近のギャラップ調査によると共和党支持者の中でトランプに好意を持つ人は55%で持たない人41%を上回っている。

トランプの最近の発言を見ると「テロリストへの尋問で水責め以上の強行な手段を取るべきだ」とか「ISに対して戦術核兵器を使う可能性を排除しない」などと過激な発言が一層高まっている。「水責め」については違法という指摘を受けて、撤回したという話もあるが・・・

トランプの乱暴な主張を果たして多くの人が支持していると考えるべきなのだろうか?

この点について私は多くの人は彼の主張そのものまでは支持していないと考えている。

彼が言っていることはレトリックrhetoric(誠実さも意味もない誇張)だが、威勢の良いところを支持しているという人が多いのではないか?と

考えている(正確にいうと「と思いたいと考えている」)

もっともレトリックとはいえ、人種差別的発言や人権侵害的発言が許容されている大統領予備選挙を見ると昔住んでいた米国とはずいぶん違うな、と感じる。その頃の米国には「本音はそうだとしても、言ってはいけないこと」というものが世の中にはあった。

「言ってはいけないことは言わない」というのが、中産階級の常識だったとすれば、その中産階級が少なくなったため、歯止めが効かなくなったということだろうか・・・

 

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集団的自衛権問題でふと60年安保のことが頭をよぎった

2015年06月29日 | 国際・政治

新聞の世論調査によると、安倍内閣の支持率が急低下している。

日経新聞の調査では現在の支持率は47%で不支持は40%。5月時点の調査では支持50%、不支持47%だった。

不支持の理由は大きく括って2つあると思う。第1は政府がこの国会で成立を目指している「集団的自衛権を含む安全保障関連法案に反対する意見」が多いことだ。もう一つは「政府に景気対策や社会保障改革を優先して行って貰いたいが、安全保障問題が優先されて前者がおざなりになっている」と感じている人が増えていることだろう。

この状況はどこか1960年の安全保障条約の批准国会審議に似ているところがある、という思いがふとよぎった。

60年当時は小学生だったので、細かいことは覚えていない。そこで安保後の騒然とした世情の中で岸内閣

の後を引き継いだ池田勇人のことを書いた沢木耕太郎の「危機の宰相」を読み返してみた。

★   ★   ★

1960年1月19日 ワシントンで新たな「安全保障条約」が調印された。・・・野党をはじめ、ジャーナリズムはいっせいに条約に対する疑問を投げかけた。・・・その前年からすこしずつ起こりはじめていた反対運動を支えていたのは、この条約によって再び戦争に巻きこまれるのではないか、捲き込まれるのはいやだという「心情」だった。・・・「自主外交」を目指した岸内閣の思惑とずれ、新しい安保条約が「対米従属」の象徴のようにみなされるようになってきた。

1960年は日米通商条約が結ばれて百年目。それを記念してアイゼンハワー大統領が訪日することが決まっていたが、岸内閣の「安保批准強行採決」が「反安保」運動に火をつけ、アイゼンハワーの訪日は延期され、岸信介は退陣を迫られる。

「安保」に慎重な姿勢を取っていた池田は通産行政に専念していた。そして岸信介辞任後の総裁選では「議会政治と政治家に対する信用を回復し、社会不安の原因を取り除くためには、反対党に対する寛容と忍耐の精神が必要である」「国民総生産を十年後に二倍以上にする」という旗印を掲げて圧勝する・・・・

この60年当時の状況はもちろん異なる。だが幾つか似たような様相のある。安倍内閣はアベノミクスと呼ばれる一連の経済政策~中核は日銀の超金融緩和策による円安と株高なのだが~により、高い支持率を維持し、安全保障関連法案の通過を目指す。安倍首相の頭の中にあるデッドラインは今年の夏だ。なぜなら今年の春米国両院議員前で「約束」をしてきたからだ。

ところが国会での議論は深まらず、違憲であると唱える憲法学者がでてくる。世論調査でも56%の人が集団的自衛権は憲法違反だと考えている。株高には、中国の景気減速・株式相場の暴落やギリシアのデフォルト懸念で陰りが見え始めた。下げ相場が続くかどうかは不明だが。

仮に現政権が安全保障関連法案の強行突破を図るとすると、支持率の一層の低下は間違いない。そして支持率回復は、所得倍増のような多くの国民の希望となるような経済政策を掲げることに頼らざるを得ないだろう。しかし残念ながらそのような名案はない。既に世論の75%は「景気回復を実感できない」と感じている。

安倍首相の母方祖父の岸信介は安保で躓いた。安倍もまた・・・という気がしないでもない。それを避け得るかどうかは寛容と忍耐にかかっている。そして戦争に捲きこまれることを避けたいという国民の「心情」に対し、集団的自衛権を容認しないと戦争に巻き込まれるというのが「真情」であることを国民に説得できるかどうかにかかっていると私は考えている。

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アメリカの世論は日本の戦争責任をどう見ているか?

2015年04月19日 | 国際・政治

今外交の世界で注目されいるのは、今月末に訪米する安倍首相が、米国議会でどのような演説をするか?という点だ。

内外のメディアに色々な立場の人が色々なことを書いている。WSJにも中国人大学教授が「安倍首相には3つの選択がある。戦争責任を認めるという選択。日本の真珠湾攻撃・米国の原爆投下をもっておあいことするという選択。戦後の日米友好と日本の国際社会に対する貢献を強調する選択がある。安倍首相は2,3番目を選択すると思うが1番目を抜かすと日本は人権尊重国家としての尊厳を失う」という意見が載っていた。これは恐らく安倍首相が戦争責任謝罪をした場合、それを中国などが政治的に利用しようという魂胆と呼応しているように思われる。

ではそのような魂胆のないところ、つまり一般米国人は日本の戦争責任をどのように考えているのか?

少し前にPew Research Centerが日米で行った世論調査では次のような結果が出ていた。

質問「日本人は第二次大戦の間に行った行為について十分謝罪していると思うか?」

していると思う  米国人 37% 日本人 48%

していないと思う 米国人 29% 日本人 28%

今謝罪する必要はない 米国人 24% 日本人 15%

ちなみにドイツの謝罪についてアメリカ人はどう考えているかというと

十分謝罪している 33%

していないと思う 37%

謝罪する必要はない 21%

「第二次大戦についてドイツは十分謝罪しているが、日本の謝罪は不十分」という説を読んだことがあるが、現在の米国世論に関する限り、むしろ日本人の方がドイツ人より謝罪していると感じているようだ。

また「過去75年間の日米間の出来事で何が重要だったと思うか」という質問に対する回答は

米国では、「東日本大震災と津波  31%」と「第二次世界大戦 31%」が同率1位で、2番目が日米安保(軍事同盟)で23%、80年代・90年代の貿易戦争を上げた人は8%にとどまった。

アメリカ人の一つの良いところは、Forward-looking(前向き・積極的)なところだ。

安倍首相がアメリカ人のこの特性をくすぐる演説を行うことを期待している。

 

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