金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

米国人の中国への見方は好転している

2017年04月10日 | 国際・政治

先週末フロリダで行われたトランプ大統領・習近平主席の会談。外交面での具体的な成果はなかったようだが、米中双方にとって内政面では多少プラスがあったかもしれない。トランプ大統領は中国に対して強気の姿勢を示し、習主席は大人の対応を示したことで、国内的には少し点数を稼いだのではないか?

もっとも夕食の席でシリア空爆の話を聞いた時、習主席は化学兵器の使用に対する米国の制裁に一定の理解を示したようだが、その後新華社通信は米国のシリア攻撃を非難しているので、今後中国がどのように対応してくるかは分からないが。

ある中国のアナリストは「シリアは核を持っていないので、報復攻撃をされる懸念はなかったが、北朝鮮は核を持っているので、米国の先制攻撃は北朝鮮の報復攻撃を招く」と警鐘を鳴らしている。

きな臭いトピックが続く中で、もう少しファンダメンタルな面、つまり米国人全般の中国に対する世論の動向を見ると、米国の景気回復により最近の中国に対する見方が好転していることがピューリサーチの調査で分かった。

この調査結果は4月4日つまり首脳会談の直前に発表されたものだが、それによると中国に対する好意的な見方は昨年の37%から44%に上昇し、批判的な見方は55%から47%に減少している。

トランプ政権は米中貿易不均衡を大きな外交課題に掲げているが、世論調査の結果では、貿易不均衡を懸念材料とする意見は2012年の61%から今年の調査時点の44%に一貫して減少している。

ピューリサーチはその理由の一つとして、米国の景気改善(そして雇用市場の改善)をあげている。つまり「中国に職を奪われている」という不満が減少していることがうかがえる。

少し端折った言い方をすれば「金持ち喧嘩せず」ということで、自国の経済状態が改善すると競争相手に対する寛容度が高まるということだろう。米中が貿易不均衡に向けて100日計画を策定することで合意した意義は大きいかもしれない。

なおピューリサーチの調査によると、全般的に中国に対する見方は好転しているが、サイバーアタックに関する懸念は2012年の50%から直近の55%に高まっていた。

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党大会後、トランプ支持率急低下

2016年08月04日 | 国際・政治

共和党の大統領候補トランプ氏の支持率が共和党・民主党両党の大会終了後、急速に低下している。

ギャロップが8月1日に発表した調査では、民主党を好意的に見る人は44%、好意的に見ない人は42%とほぼ拮抗したが、共和党については好意的に見る人は35%にとどまり、好意的に見ない人は52%にのぼった。

直接の原因はトランプ氏が息子をイラク戦争で亡くしたパキスタン系アメリカ人でイスラム教徒のカーン弁護士を侮辱したことによる。

米政界では戦没者の遺族を批判することはタブー視されており、批判の声は共和党内部からも上がっている。

トランプ氏についてはテレビのモーニングショー(モーニング・ジョー)でジョー・スカボロー氏が「トランプ氏が数か月前に外交問題の専門家に米国は核兵器を持ちながらなぜ使うことができないのか?と3度も質問した」ことを明らかにした。

またワシントン・ポスト紙のインタビューで下院議長再選を目指すライアン氏への支持を拒み党内を混乱させている。

カーン弁護士を侮辱したことについては、ベトナム戦争に従軍し捕虜になった経験があるマケイン上院議員が「彼を大統領候補に指名したが、最も模範的な国民を誹謗中傷する権利までを与えたわけではない」と痛烈に批判した。

CNBCを見ると「仮にトランプ氏が大統領選挙から撤退することになれば、共和党の候補者選びはどうなる」という記事まででてきた。

人間性や大統領としての見識に疑問符が付き始めたトランプ氏。問題が問題だけに簡単に収まりそうもない。

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トランプ候補の言いたい放題、建て前に疲れた一部の白人層に受けたのか?

2016年07月25日 | 国際・政治

先週ドナルド・トランプを大統領候補に指名して終わった米国共和党大会。この話題は日本のテレビニュースでもしばしば取り上げられていた。

今週開かれる民主党大会では、ヒラリー・クリントンが大統領候補に指名される予定だから、いよいよ大統領選挙がヒートアップしてくる。

今月7日にピューリサーチセンターが発表した世論調査(今日大統領選挙が行われるとすればだれに投票するか?)によると、ヒラリー・クリントン45%、ドナルド・トランプ36%、ゲイリー・ジョンソン(小政党リバタリアン党の大統領候補・元ニューメキシコ州知事)11%となっている。

このような世論調査をベースにして、民主党のヒラリー・クリントンが大統領に選出される可能性が高いと推測する人が多いようだが、私は現時点での投票見込みより、接戦になるのではないか?と考えている。

理由はトランプ支持がある種のモメンタム(慣性)を持っているからだ。共和党で予備選運動が始まった頃、泡沫候補と見られていたトランプがどうして大統領候補に選ばれたか?というと「言いたい放題」を言ってきたからである。

「メキシコ人の大半は犯罪者だから国境に壁を作り、不法移民をさせない」「イスラム教徒の一時入国禁止」

これらの発言は人種差別的・宗教差別的でありかつ現実性はない(たとえば米国には国連本部があり、当然イスラム諸国の人も多く来ている)。

その程度のことはトランプ支持者といえども、百も承知だと思うが、それでもトランプ支持者がいることは彼の「言いたい放題」発言に「よくぞ、言いたいことを言ってくれた」という共感があるからだ。

トランプはテレビ番組の司会で人気を博したそうだが、その番組の中の彼の決め台詞がyou are fired(お前は首だ)だそうだ。

解雇の自由度が高いアメリカとはいえ、実際にボスがyou are firedということは少ないだろうと思う。なぜなら首にされた方が訴訟を起こすリスクが高いからだ。私の経験ではアメリカでも訴訟リスクを回避するために、自主的な退職・転職という選択肢を選ばせることが多い(そのため転職時の職歴照会書には悪いことは書かないという条件を出す)。

人を解雇するということはアメリカでも骨の折れる仕事である。現実社会ではyou are fierd と叫ぶ訳には行かないから、テレビの中のトランプに溜飲を下げる人がいるのだろう。

メキシコ人に対する差別的発言も今まで政治的禁句であった。本音と建て前の差が小さいと思われているアメリカでも何でも言って良いわけではない。その代表が民族的・宗教的多様性を尊重するというものだろう。

そこをトランプはあっさり踏み越えてしまったのである。グローバリズムというのはある意味建て前の世界である。一方現実社会に目を向けると、犯罪者の中にある民族的傾向を見ることができる(だからといってある民族を犯罪予備軍的に見るのは暴論だが)。

現実社会から感じる「本音」をぶつけられないことに疲れを感じた一部の白人層がトランプ支持に回っていると考えるべきだろう。

グローバリズムという理念=建て前に対する自国主義という構図は英国のEU離脱でも見ることができる。

仮にトランプが彼の過激なレトリックを少しトーンダウンして共和党の穏健派の取り込みを図りながら「自国重視主義」を前面に打ち出してくると彼の支持率は高まる可能性がある(一方過激なレトリックを止めると支持者が減る可能性もある)。

米国大統領選挙は興味深い。

 

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次の危機はイタリアから~Italexitと不良債権問題

2016年07月05日 | 国際・政治

世界の株式市場は概ね英国のユーロ離脱国民投票の前の水準に戻りつつある。Brexitのプロセスと影響を落ち着いて見極めようということだろう。

だがBrexitは欧州各国のユーロ離脱の動きに影響を与えている。今懸念されているのはイタリアだ。市場では早くもItalexitという言葉がささやかれている。イタリアのレンツィ首相は「上院議員の数を315から100に減らし、行政府への影響力を削減する」等といった政権基盤強化策について10月にも国民投票を行うと予想されている。レンツィ首相は構造改革に国民の支持が得られないなら辞職すると背水の陣の構えだ。

だが先週の世論調査では、反対派の五つ星グループ支持者が首相の民主党支持者を上回った。五つ星グループは「ユーロ離脱について国民投票を行う」と言っているので、同グループの勝利はItalexitを現実味を帯びた話にするだろう。

イタリアの問題はユーロ離脱の可能性だけではない。いやもっと喫緊かつ大きな問題は銀行の不良債権問題だろう。

WSJによるとイタリアの不良債権比率は17%でこれは米国の10倍の水準だ。欧州の上場銀行の不良債権の半分はイタリアの銀行が保有していると言われている。

イタリアの銀行が不良債権の処理を進められない理由は「低収益性」と「中小企業融資の担保がオーナーの自宅」という点にあるようだ。この構造は日本によく似ていると思う(ただし日本では今不良債権は大きな問題ではないが)。

低収益性は「銀行の過剰人員と過剰店舗」「伝統的な貸出業務に固執して、資産運用や投資銀行業務といった手数料部門が弱い」ということに起因する。

イタリア政府は昨年の秋から「不良債権市場の創設」「破産手続きの短縮化」「400強の信用金庫Cooperative bankの合併」といった金融改革を掲げているがほとんど成果を挙げていない。

英国のユーロ離脱懸念で欧州の経済成長が減速することは間違いないが、その影響は英国よりもイタリアあるいはポルトガルなどといった南欧諸国に一層強く出てくるのだろう。マーケットはひと時安堵しているに過ぎないのかもしれない。

 

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英国のEU離脱、手続きは長くかかるだろう

2016年06月25日 | 国際・政治

昨日(6月24日)の朝ブログを書いた時点では世論調査によると英国のEU残留見通しがやや上回っていた。だからその前日全世界でリスクオンモードになり、株式市場は上昇していた。しかし開票が進むにつれて、離脱支持が増えて最終的には51.9%対48.9%で国民投票の結果は離脱と決まった。

昨日の朝の予想は見事に外れた訳だが、これは「英国にEUに留まって欲しい」という希望が判断を狂わせたのだろう。恐らく世界の大部分の投資家もまた残留を希望していたので、残留組優勢というニュースに過剰に反応したのかもしれない。

さて英国民は僅差でEU離脱を決めたが、これはホンのスタート点に過ぎない。EUメンバーの離脱については1985年にグリーンランドがEUの前身である欧州経済共同体から離脱した例があるだけで前例がないので、手続きは複雑になることが予想される。

加盟国の脱退ルールの定めたリスボン条約50条のサマリーをざっと読んでみたが、決められていることは「脱退を決めた国は欧州理事会に脱退意思を正式に通知する」「欧州理事会は交渉のガイドラインを発表する」「EUと脱退国の交渉が始まる」「欧州理事会は欧州議会に同意を求める」「議会は特定多数決の決定で承認する」というものだ。

もし2年間の交渉期間中に結論が出ない場合は、欧州理事会と脱退国の合意がない限り、脱退国のメンバーシップは自動的に終了する。

英国がEUを離脱するということは法律的には、英国が欧州基本条約とそれに付随する経済協定等の摘要から外れるということを意味する。

英国はEUを離脱し、EUの意思決定への参加と予算拠出義務を失う。しかしEU諸国の財やサービスへの自由なアクセスを希望するだろうから、新たに包括的な経済協定を結ぶことを模索するだろう。だがその姿はまだ見えないし、EU離脱派の増加を懸念するドイツ・フランスなどは交渉のハードルを高める可能性がある。

総ては不確実である。不確実な時、世界の投資家はリスク回避に動く。金曜日の世界の株価急落が英国のEU離脱リスクに投資家が身構えた結果だ。一部には売られ過ぎの銘柄もあり今後買戻しが入るだろう。だが英国のEU離脱が実現までには色々な政治外交上のイベントが続く。安定した市場は遠くなった。

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