最近のエコノミスト誌によれば、先進国の企業の貯蓄過剰が長期金利低下の原因になっているという。以下記事のポイントを紹介する。
- ブッシュ政権の経済顧問を務めるバーナンケ氏は、今年初めに発展途上国の貯蓄過剰が米国の経常赤字と債券金利低下の原因であると論じた。しかし最近のJ.P.モルガンのエコノミスト達の研究では、発展途上国の貯蓄過剰よりも、先進国の企業の貯蓄過剰の方がはるかに影響が大きいという結論が出ている。
- 発展途上国の半分以上が対外債務の状態から貯蓄過剰に転じたのは、2000年のことであったが、この時点では米国の債券の利回りはほほ1996年当時と変化はない。米国の債券利回りが大きく低下したのは、もっと最近のことである。
- 2000年以降主な先進国の企業は借入超過から貯蓄超過に転じた。過去4年間の企業のネット貯蓄の増加は1兆ドル以上になるが、これは世界の年間GDPの3%に相当し、発展途上国のネット貯蓄増加の5倍である。J.P.モルガンは1960年以降の米国債の平均利回りと現在の米国債の利回り格差の半分は、企業の貯蓄増加によるものと推定している。
- 2002年以降米国企業は平均GDPの1.7%の資金余剰になっている。(過去20年間平均は1.2%の資金不足)
- 日本企業は1994年以降資金余剰で、バブル期に膨れ上がった債務の弁済を行なっている。過去3年の日本企業の資金余剰は平均GDPの6.2%以上である。(80年代、90年代の平均はGDPの2.3%の資金不足)
- 日本企業のコスト切り下げ~資本支出と新規採用の抑制~により、日本の経済成長率は持続的に足を引っ張られている。良いニュースというのは、企業債務の対GDP比率がバブル前の1980年代半ばのレベルに戻ったことである。
- 今や米国と欧州の企業も日本企業の後を追い債務削減に努めている。米国で企業の貯蓄余剰が高い利益を上げている金融セクターに大きく依存することも着目しておくべき点だ。
- グリーンスパン連銀議長は「短期金利が上昇している中で債券金利が低下しているのは難問だ」と言う。しかし企業の資金余剰の観点からはコンサルタント会社のワットリング氏は本当の難問は「債券金利が低いことではなく、企業利益が堅調で資金コストが安いにも係らず企業が投資ではなく貯蓄に向かっているか」ということだと言う。
- もし1990年代のバブル期における過剰投資が現在の投資抑制の原因であれば、バランスシートが改善され余剰生産能力が活用された後は投資が回復し、債券利回りは上昇するはずだ。前述のワットリング氏は企業が借入・投資を再開する兆しがあると指摘する。米国では1990年代後半以降初めて企業与信の伸びが消費者向貸出の伸びを上回っている。
- J.P.モルガンも企業行動は比較的早期に正常なものに戻り、その結果10年米国国債利回りは2005年年末までに4%から5%に上昇すると予測している。
- 一方HSBCのエコノミストチームは、企業の投資は引き続き弱いと予想している。日本企業の10年にわたる借金返済努力は真剣な教材となっている。昨年の米国における投資拡大は減価償却範囲拡大に刺激されたもので将来の投資の先食いであろう。もし企業経営者が現在の消費ブームは脆弱な基礎~特に住宅価格の上昇~で支えられていると認識すれば、投資に気乗りがしないだろう。
以上がエコノミスト誌のポイントである。要は現在の低い長期金利は「企業の資金余剰」が原因であるが、将来の企業の投資水準については強弱双方の意見があるというものだ。
なお私見を付け加えると「企業にとって高い投資リターンが得られる投資分野が中々見つからない」ということが設備投資が伸びない大きな原因であると思う。この傾向は特に日本ではしばらく続くと思うので企業の設備投資は低迷し、その結果エコノミスト誌の意見が正しければ長期金利は低いまま推移するということになる。