近くの図書館でふと目にした「幕末・明治の偉人たちの定年後」(河合 敦著 WAVE出版)。勝海舟・東郷平八郎など広く知られている著名人の「定年後」を紹介した本である。著名人なのである程度の業績は知っているので読みやすい本だ。逆に歴史好きな人には新しい発見はないとも言える。ただし偉人たちの定年後を比較して一覧できる点では面白いとも言える。
で誰の定年後に共感したか?というと一番は秋山好古である。
日露戦争で騎兵隊を率いて活躍した秋山好古は、戦後「日本騎兵の父」「最後の古武士」と讃えられる。その後陸軍大将に昇任した秋山は大正12年に陸軍を退職する。
秋山の口癖は「男子は生涯において一事を成せばよい」というものだったから、彼はその目的を達成した訳だ。だが同時に秋山は「人は一生働き続けるものだ」という信念も持っていて第二の人生では教職につくことを選ぶ。彼は故郷松山の北予中学校の校長に就任する。
秋山は71歳で亡くなる半年前まで校長として毎日学校に通い、教員が休んだ時は自ら授業をしていたという。
なぜ秋山好古の生き方に共感したか?というと「真似をしようと思うと真似ができない訳ではない」からである。
偉人たちの定年後の中には、良し悪しは別として真似のできない生き方もある。例えば最後まで権力の座に座り続け後世に影響を残した山県有朋や東郷平八郎の生き方は真似をすることができない。なぜなら我々はそもそも権力の座にいないからである。
だが秋山好古のように第一の人生と全く違うキャリアを追うことは努力次第では可能な生き方だ。もっとも秋山には若い時に教師の経験があり、また著者が「好古が本当にやりたかったのは軍人ではなく、教師ではなかったのか。」と述べているように彼の夢は教師になることだったようだ。そういう意味では定年後に生涯の夢を実現したともいうことができる。
秋山の生き方は「真似ができない訳ではない」と書いたが、これは「夢」を持っている場合であろう。夢は仕事とは限らない。この本に出てくる偉人の中では板垣退助や渋沢栄一は社会活動に定年後の人生を捧げた。
板垣や渋沢ほど射程距離の長い社会活動はできなくても、自分の射程距離でボランティア活動を行うことは可能だろう。
大事なことは「夢」=目標を持つことだということを改めて教えてくれる本である。