監督 バリー・レヴィンソン 出演 ダスティン・ホフマン、トム・クルーズ、ヴァレリア・ゴリノ
「午前十時の映画祭」18本目。
私はこの映画をうまく消化しきれない。長い間別れていた兄弟が、父の死をきっかけに出会い、一週間の旅をする。その過程で、ある程度打ち解け、家族の絆をたしかめる--というストーリーである。
とてもよくわかる。
でも、そんなに簡単? そんな簡単に人間関係というものはかわるものだろうか。それが、よくわからない。ストーリーはわかるが、ストーリーのなかで展開されていることが、どうにもよくわからないのである。
「自閉症」というものを私がよく知らないということも原因のひとつかもしれない。
この映画ではデスティン・ホフマンが自閉症の兄を演じている。彼は、決まりきった日常を繰り返さないとパニックになる。新しい騒音も苦手である。一方、数字にはとても強い。記憶力もずば抜けている。この「弱点」と「天才」の対比の描き方が、私には、どうにも疑問が残るのである。
同じ日常を繰り返さないと不安になる。日常と違ったことは全部だめ。それは、私からみれば(トム・クルーズからみても、だと思う)「どうして?」というようなことである。初対面のひとはこわい。体に触られるとパニックになる。デスティン・ホフマンの読んでいる本を手に取ってはだめ。ベッドは窓の側でないとだめ。ホットケーキにはメイプルシロップと爪楊枝がいる。下着はKマートのものでないとだめ。--こういう部分は、ダティン・ホフマンの「弱点」のように描かれている。「弱点」というより「問題点」といった方がいいのかもしれない。
一方、電話帳の名前と番号を一回読んだだけで記憶してしまったり、床にこぼれた爪楊枝の数を即座に数えたり、三桁の掛け算を楽々とこなしたりする。そういうことは、ふつうのひとにはできない。だから、そういう部分は「天才」として描かれている。映画のなかで「天才(的)」と表現されている。(少なくとも字幕では、そういう印象が残る。)
でも、そうなんだろうか。日常と少しでも違うとパニックを起こすことが「問題点」(弱点)であり、数字に強いのが「天才(的)」なのか。もしかすると、逆かもしれない。決まりきった日常を決まりきった状態で繰り返す、そんなふうに自己制御するというのは「天才(的)」なことであり、三桁の掛け算が暗算でできることや、一度読んだ本は覚えてしまうということの方が「問題点」かもしれない。
三桁の掛け算の暗算や、一度読んだ本は覚えてしまうということの方が、もしかすると人間関係を「邪魔」しているかもしれない。そんな能力があるために、それをどう他人との関係のなかでいかしていいかわからなくなる。そういうことはないだろうか。
ひとには誰でもわからないことがある。同じように、苦手なことがある。わからなかったり、苦手だったりするから、それをなんとかしようとして、他人同士が接近し、助け合うのだと思うけれど、そういうとき、数字に関する「天才(的)」能力は、「問題点」ではない?
何かが、ちょっと違っている--と、私は感じてしまうのだ。
「弱点」(問題点)の方は、ていねいに描かれている。
たとえばダスティン・ホフマンはお風呂の熱湯(お湯)を先にバスタブに入れてしまうことに対してパニックを起こす。それは、彼が幼いとき、家でたぶん手伝いをしようとしてお湯を入れたことがあったのだ。そして、それを見た両親が、「あ、チャーリー(弟)がやけどをしてしまう。この子(ダスティン・ホフマン)は弟を傷つけてしまうかもしれない」と判断したということがある。そういう過去がある。それを覚えていて、ダスティン・ホフマンはパニックを起こす。--それは、パニックではあるけれど、その背景に他人(弟)に対する愛情、弟を傷つけてはいけないという判断が働いている。
その判断は過剰かもしれない。だから「問題点」なのだろうけれど、そんなふうに判断し、自分の行動を制御するというのは、けっして「問題点」ではない。
このことは、トム・クルーズ自身が気づく。そして、そこから兄に対して愛情というものが育ってくる。
こんなふうにして、「問題点」と言われているものが、実は「問題点」ではない、ときちんと描くのだったら、「天才(的)」な部分の「問題点」も描かないといけないのではないのか。そうしないと、何か誤解を産んでしまいそうな気がする。
たぶん、そういうことが描かれていないことが影響していると思う。二人の旅が飛行機も高速道路もだめという旅になってしまうのも、なんというのだろう、「必然」というよりも、まるで映画を完成させる手段のように見えてしまう。飛行機や高速道路で移動してしまっては、兄弟がふれあう時間が短すぎる。そんな短い時間では、兄弟愛が生まれ、家族の絆について考えるなんていうことを表現できない。だから、最低1週間の旅にする必要があり、その1週間の「口実」に、ダスティ・ホフマンの演じている自閉症の「飛行機がだめ」「高速道路もだめ」「日常と違ったことはだめ」が利用されているような、いやあな感じが残るのである。
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