昨夜は国書文芸カレッジの講座。
提出された作品に出てきた「夕星」という言葉を正しく読めなくて、ちょっと恥ずかしい思いをしました。
「ゆうずつ」と読まなくてはなりません。宵の明星のこと。夕方、西の空にかかった金星ですね。
万葉集には「ゆふつつ」、枕草子には「ゆふづつ」と書かれているようです。
- 夕星(ゆふつつ)も通ふ天道(あまぢ)を何時までか仰ぎて待たむ月人壮子(つきひとおとこ)
(万葉集巻第十「秋の雑歌――七夕九十八首」)- 星はすばる。牽牛(ひこぼし)。ゆふづつ。よばひ星、すこしをかし。尾だになからましかば、まいて。
(枕草子二三八段) - 星はすばる。牽牛(ひこぼし)。ゆふづつ。よばひ星、すこしをかし。尾だになからましかば、まいて。
しかし、なぜ「星」を「つつ」とか「つづ」とか「づつ」とか読むのでしょう? 明けの明星を「あさずつ」といったり「あけつつ」といったりすることはありません。「あかぼし(明星)」という言葉があるぐらい。
気になったので小学館の『日本国語大辞典』を引いてみました。「ゆうつづ」の項に詳しい説明が出ています。
意味は「宵の明星」。
語源は――
- 夕日に続いて出るところから、夕続の義。
- ユウタユタフホシ(夕猶予星)の略。
- ユフはユフベの義。ツツはテルテルの反。
- ユフツク(夕着)の義。
どうせわからないのなら、自分で勝手に考えてみるのも一興。以下は勝手な講釈です。
「つつ」または「つづ」は、天上にいる神のこと。根拠はありませんが、「つつ穴」は船霊(ふなだま)を祀る穴のことであり、「つつ」は船霊を指すことがある。「つつ」に霊的な意味合いがないとは限りません。
「ゆふつつ」は、それゆえ「夕べの神」すなわち「宵の明星」のこと。
ここで思い出すのは伊勢物語で有名な「つついづつ(筒井筒)」という言葉。在原業平の歌と故事によって幼少からの馴れ初めがある男女の仲を意味しますが、もしかしたらこの「つつ」も「空の神」=「星」なのではないでしょうか。空にある星(つつ)と、井戸もしくは泉の水に映ったその星の光(いづつ)のように切っても切れない仲――というような意味で古代人が使っていたのでは……。
空想をたくましくしてみました。
それはともかく「ゆふつつ」または「ゆうづつ」は古文の授業で習ったはず。すっかり忘れていたのは、情けないかぎりでした。