惑星ダルの日常(goo版)

(森下一仁の近況です。タイトルをはじめ、ほとんどの写真は交差法で立体視できます)

『作家の誕生』

2005-10-25 21:19:00 | 本と雑誌
 アラン・ヴィアラ『作家の誕生』(塩川徹也監訳、藤原書店)は、タイトルどおり職業作家が出現した頃の様子を描き出す。時は17世紀。デカルトの『方法序説』(1636年)とニュートンの『プリンキピア』(1687年)に挟まれた時期にほぼ一致する。この時代のフランスで、もの書きをなりわいとする人たちがどのように生まれ、どのような生態を見せていたかというお話。

 私の興味のひとつは、ちょうどこの時代に『日月両世界の諸国諸帝国』を書いたシラノ・ド・ベルジュラックが社会的にはどのような位置を占めていたのかということ。この点は本書を読んでよくわかりました。まさにシラノは誕生期の作家そのものという生活を送ったといえそう。貴族に仕えたり、時の権力者に(表面的に)おもねるために二枚舌を使ったり……。なんとかして文章でカネを稼ごうとしていたようです。

 作家が誕生し、文壇が形成されるまでの流れは、SFのそれと似ていると思いました。フランス各地にあった文人の集まりであるアカデミー(もともとは私的なサークルだったそうです)は、SF草創期のファンクラブに匹敵するのではないでしょうか。そこでの議論が文学界(SF界)の風潮や価値観を形成してゆき、作家のヒエラルキーが決められる。
 作家の戦略としては、そういった「制度」にのっとってゆっくり着実に地歩を固めるやり方と、一般大衆を相手に華々しい成功を収め、一気に階梯を駆け上るやり方がある……など、今も変わらぬ世渡りの方法が見られます。
 この時代に作家という階級や文学制度が確立したという作者の主張は正しいと思いました。