川端裕人さんの新作『みんな一緒にバギーに乗って』(光文社)を読みました。
これは驚くべき本です。色々な面で驚かされました。
これは驚くべき本です。色々な面で驚かされました。
まず、題材。男性保育士の物語なのです。
この職業を小説の素材にしようと考えるところが凄い。ベストセラーの本棚を眺めながら仕事をしていては思いつかないでしょう。たぶん、自分の身近なところに気を配っていて、誰も気づかないところに題材を見つけたものと思われますが、そうした視点といい、興味の持ち方といい、素晴らしいことです。
そして、素材の料理の仕方が憎い。とおりいっぺんの、単に珍しい主人公を持ち出した小説ではなく、保育の――それも男性がプロとして保育に携わる場合の――問題を正面に据え、それでいて楽しく読める物語を作り上げている。大変なことです。
さらに、人物の描き分けが見事。男性保育士が3人登場しますが、それぞれが違ったタイプで、性格に応じた保育の仕方があるのだということが納得させられます。もちろん女性の保育士も4人ばかり登場し、彼女たちもそれぞれ違った個性を持ち、違った保育の手腕を発揮しているのです。
もっと凄いのは、子どもたちが――それもたった2歳の子どもたちが、見事に描き分けられていること。
そうなんですねえ。人は赤ちゃんの時からそれぞれ独自の性格を持っているんですよねえ。
自分の子どもが小さかった頃には気づいていたはずなのに、今ではすっかり忘れていたことを思いださせられました。
それにしても、こんなに小さな個性をくっきりと描き出すなんて、何ということでしょうか。
作家の手腕の面のみに注目して、物語の内容には触れませんでしたが、その点でも、昨今の殺伐とした状況を告発するのではなく、子育てには子育ての困難さと面白さがあることが生き生きと伝わってくる、好感の持てるものであることを保証いたします。
いやあ、凄い。一見派手でないだけに、よけいに凄い本だと思いました。