古代ギリシアの哲学者ピュタゴラスが説いた教えに数々の禁忌があることは有名です(一部は拙著『魔術師大全』でも紹介しました)。
中でもよく知られているのは「豆を食べないこと」。牛が豆を食べているのを見て、自ら牛を「説得して」やめさせたというのですから、徹底していたようです。
しかし、なぜ豆を食べてはいけないのか、理由がよくわかっていません。豆を食べるとおならが出るからだとか、豆には死者の魂が宿っているからだとか、色々なことがいわれています。
ところが、今回『辛いもの好きにはわけがある』(ゲイリー・ポール・ナブハン著、栗木さつき訳、ラダムハウス講談社刊)を読んでいて、「これだ!」という記述に遭遇しました。
ソラマメに中毒する人たちがいるというのです。しかも、地中海地方に特に多い。ピュタゴラスはイタリアで教団を指導していました。
ナブハンさんによれば、グルタチオン還元酵素という物質が遺伝的に欠損した人がソラマメを食べたりソラマメの花粉を吸ったりすると、溶血性貧血を引き起こし、眠気、めまい、吐き気、尿の変色などといった症状が出るというのです。
しかし、この体質の人の血液中では、マラリア原虫が成長したり繁殖したりすることが困難だという。鎌状赤血球を持つ人がマラリアに耐性をもつのと同じですね。アフリカに鎌状赤血球による貧血の人が多いように(つまりマラリアに強いので生き残った)、地中海沿岸ではソラマメに弱い人が多くなったのではないかと、ナブハンさんはいっています。
もしそうだとしたら、ピュタゴラスもこういう体質だったのではないでしょうか。あるいは、弟子たちにこの体質の人たちがいることを知っていて、ソラマメをタブーにしたのかもしれません。
ずっと前からの疑問がこれで一つ解消したような気がします。読書の功徳ですね。
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