このところ大手銀行の株価上昇が目立つ。景気の回復基調がはっきりしてきたので当然といえば当然であるが、貸出残の減少に歯止めがかかりそうだということも一つの要因の様だ。この点についてウオール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「日本における貸出拡大の兆候」(In Japan, Sign of Loan Growth)という記事を出している。海外勢がこのような見方に立つとすると銀行株相場は息が長いかもしれない。
金融業務に携わるものとしては貸出機会の拡大は好ましいことであるが、目先の金利動向には注意を払いたいところだ。以下WSJの記事を簡単に紹介する。
- 日本経済は長く続いていたスランプから脱出する重要な一里塚に近づきつつあるように見える。一里塚とは銀行貸出がプラスに転じる時点だ。
- 全国銀行・地方銀行による6月の貸出残高は、前年同期比0.1%の減少にとどまった。これは時系列的データが提供されはじめた2004年6月以降最小の落ち込みである。(なおコメントを加えるとこれは日本銀行が8月8日に発表している『7月の貸出動向』を踏まえたものであるが、債権流動化・償却等の特殊要因調整後の数字で-0.1%ということであり、調整前は-2.4%である)
- 幾つかの地域では貸出残はプラスに転じている。例えば九州では先月貸出の伸びはほぼ6年振りにプラスに転じた。
- 強い経済指標とここ数ヶ月の企業収益動向から見て、エコノミスト達は2005年年末にかけて銀行貸出はプラスに転じるだろうと述べている。
- 貸出増加の要因は銀行が不良債権処理を終えたことが大きいが、もう一つの兆候は長年の信用収縮と物価下落から脱し、日本が拡大サイクルに再び入る可能性が高いということである。拡大サイクルの中で銀行は経済成長に資金を提供する要となる。
- クレディスイスファーストボストンのストラテジスト市川氏は先週投資家に景気回復により企業借入が拡大し銀行収益が改善するので銀行株の積み増しを推奨した。
- 貸出の拡大は銀行株以外にも影響を与えるだろう。資金需要増加は金利上昇を助長するだろう。もっともこれはまだ実際には起きていないことだが。金利上昇は日銀の金融政策の舵取りをやり易くする。
- 一方幾人かのエコノミストは貸出増加は現在のところ実際の資金需要よりは銀行の積極的な姿勢により起きていると言う。従って新規ローンの金利はまだ低下し続けている。モルガンスタンレーのエコノミスト斎藤氏は高級物件に対する不動産融資がミニバブルを起こしていると言う。彼は「貸出増は必ずしも貸出の質の改善にはつながっていない」と言う。