金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

資本市場の調整機能は狂っているのか?

2005年08月22日 | 金融

資本市場が正しく機能しているならばリスクの高い投資にはそれに見合うプレミアムがついてくるはずである。ところが現在の世界の市場で起きていることは必ずしもリスクとリスクの対価であるプレミアムがバランスしていない。世界の有り余る資金が運用機会を求めて動き回る結果、リスクプレミアムが異常に低くなっていると私は判断している。エコノミスト誌は「資本市場の交通信号は狂っているのか?」(Traffic lights on the blink?)という記事で現在の資本市場の問題点を指摘している。以下ポイントをまとめてみよう。

  • 米国の経常赤字は今年8千億ドル以上に拡大すると予想される一方、ドイツ、日本、中国の経常黒字は記録的なレベルに達する見込みだ。また富裕国全体の国家債務のGDPに対する割合は過去最高水準に達している。また多くの国で家計はかってない債務レベルに達している。
  • 多くのエコノミスト達は裏に潜んでいる構造的な要素~例えば人口動態とか生産性の違い~でこれらの傾向を説明しようよしている。しかしもっと悩ましいもう一つの説明は世界経済を均衡に戻す価格の信号がねじれているというものだ。
  • もっとも明らかな例、米国経常収支から始めよう。理論的には急速に経常赤字が拡大する場合、投資家は通貨価値の下落リスクが増大するのでより高い金利を求める。金利が高くなる結果、国内消費が落ちて外部負債が減少するのである。これは1980年前半米国の経常赤字が急増して時に起こったことである。しかし今回は調整メカニズムは動かなくなっている。アジア諸国の中央銀行が米国国債を買っていることもあり、ここ数年間米国の金利は下落している。低金利が米国の住宅バブルと強い消費支出を助ける限り、経常赤字が目立って減少することはない。
  • 金融不均衡を修正するもう一つの機能も消失しているとフランスの証券会社IXISは指摘する。過去、消費者借入と消費が急拡大した時中央銀行はインフレを抑えるため金利を引き上げた。しかし、今日インフレは中国やその他低賃金国からの安い商品の流入により抑えられているし、インフレ懸念は中央銀行に対する信任により引き止められている。
  • 第三の壊れた回路は金利と成長率の間の関係である。米国は高い成長率にもかかわらず、実質国債利回りは日本より低くユーロ圏とほぼ同じレベルである。このことが成長性ギャップを持続させる。
  • またユーロ圏で総ての国が名目上同一金利を取る結果、インフレ率が低く成長率が低いドイツやイタリアはスペインやギリシアのような急成長国よりも高い実質金利を負担することになる。これは本来低成長国と高成長国に必要なものと全く反対の結果になっている。
  • またユーロ圏が単一レートであるため、各国の財政の健全性が異なるにもかかわらず、国債の金利に殆ど差はない。1990年代にはイタリア国債はドイツ国債より450bp利回りが高かったが、現在では公的債務の対GBP比率はイタリアがドイツの倍のレベルであるにもかかわらず、国債の利回り格差は僅か20bpである。
  • 金利と債券利回りは世界経済の交通信号である。それらは経済に何時進むべきで何時止まるべきかを告げている。既に見た様に交通信号が壊れている場合、世界経済が混乱し悪い場合は崩壊するリスクがある。
  • (本文にある図は省略するが)1995年には国の債務額(対GDP比)と国債の実質利回りの間には相関関係があったが、現在では相関関係は殆どなくなっている。
  • 世界的な低金利の結果、投資家はあらゆる種類の高い利回りを求めるため、リスクプレミアムが低下している。この結果恐らく経済的な不均衡を生じているのである。しかし避けることが出来ない調整が起こる時、それはより痛みを伴うものになっている可能性が高い。遅かれ早かれ交通信号は赤になるだろう。
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