金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

企業人は長生きできるのか?

2006年12月01日 | うんちく・小ネタ

先日会社のS先輩とお酒を飲んでいる時、同氏から少しショッキングな話を聞いた。同氏が会社のOB会報の訃報記事から死亡者の平均年齢を計算したところ約71歳(端数まで聞いたのだが失念した)だということだ。Sさんは続けて「金融機関の人間はストレスが高くて長生きできないのですよ。我々は日本人男性の平均寿命が80歳だなんて考えるより平均寿命70歳位と考えてやりたいことはやっておいた方が良いですよ」と言う。

このSさんの平均寿命の計算方法が無条件にある企業勤務者の平均寿命を統計的に正しく推定しているものでないことは容易に想像がつく。つまり退職者が各年齢に均等に分布しているとは思われないからだ。分かりやすい架空の例で説明しよう。ある企業を退職した第1期生の人が70歳という企業があるとする。第1期生の人は100人いて99人は元気だが、一人が70歳で死亡したとする。この時この企業勤務者の平均年齢は70歳であるというのがSさんの計算である。しかしこれが統計的な意味で間違っていることは明白であろう。

私はSさんの計算の問題を指摘する積りでブログを書いている訳ではない。むしろ私はSさんの行動に触発されて「ある企業の勤務員の平均年齢をもう少し統計的に把握する方法はあるのか?」という問題を考え始めた。

そこでまず旧知の我々の企業年金基金の常務理事に電話で照会してみた。常務理事は年金数理人にも照会してくれたが、結論からいうと簡単に平均年齢が分かる様なデータはないということである。

興味のある方に向けてもう少し説明を続けよう。終身給付を行なう企業年金においては年金受給者(退職者)がどの程度長生きするかということは要支給額を算定する上で極めて重要な要素である。しかし要支給額を計算する上で個別企業の平均寿命を使う訳ではなく、日本人の平均寿命データを使う(このデータは時々更新される)。ところが個別の企業年金の受給者の死亡状況は平均とは異なる。長生きする人が多いと年金支給額が増えるので年金財政は悪化し、早死にする人が増えると年金財政は好転する。

と、この程度のことは職業柄知っていたし、更にいうと「平均寿命とある企業年金制度の寿命の差」つまり保険でいうところの「死差」については利源分析の観点から年金事務局で把握しているのではないか?というのが私の期待だったのである。しかし結論からいうと、我々の年金制度では厚生年金の代行部分の返上等があり、現時点での「死差分析」はできないし、その前の厚生年金基金時代の死差分析から平均年齢を把握するにはデータを引っかき回さなければならない・・・というのが常務理事の回答だった。(無論個人の興味でお願いできることではない)

以上長々と書いたが「ある企業に勤務した人の平均寿命がどれ位なのか?」ということを把握することは容易なことではないということが分かる。しかし巷間金融機関や商社の勤務員の寿命は短いという話も聞くのでもしどなたか統計的なデータをお持ちなら教えて頂きたいと思う。

一方Sさんの統計に示される様に「ある一定期間に死んだ人の平均年齢は71歳だった」というのも事実である。むしろ心理的に圧迫感のある事実というべきかもしれない。我々は統計で生きている訳ではなく、もっと身近な人々の生き死にを実感しながら生きているからだ。

従って我々がこれから生きていく上ではSさんがおっしゃる様に「平均寿命70歳という覚悟でやるべきことは直ぐやっておく方が良い」ような気がする。しかしその一方老後の毎年の収支が年金支給額≧生計費であると「死差リスク」はないのだが、年金支給額<生計費で貯蓄を取り崩している場合は個人的な「死差リスク」が発生する。生きていくことをマネージするのは結構大変なことかもしれない。

コメント
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