金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

リバース・モーゲージ、利用するなら少し待って

2006年12月28日 | 金融

表題は日本ではなくアメリカの話である。

リバース・モーゲージとは簡単にいうと高齢者向けの住宅を担保ならびに返済原資とした貸付制度で英米で発展してきた。そのアメリカでベビーブーマーが退職年齢に差し掛かりリバース・モーゲージ市場が急拡大する可能性が高まっている。これに伴い金融機関や政府機関が新製品を投入しコストを下げる動きがあるので、消費者に待てるならリバースモーゲージの利用を少し待ったらどうか?という記事がウオール・ストリート・ジャーナルに出ていた。

私は今リバース・モーゲージについてある専門誌にちょっとした記事を書く準備を進めているところなので、この記事は参考になる。ポイントをまとめておくことにした。

  • バンカメが最近フェニックスでリバース・モーゲージのパイロット商品を販売し始めた。もっとも何時全国的に販売を開始するかは明らかにしていない。またカントリーワイド・ファイナンシャルも2007年に新しいリバース・モーゲージ商品を投入すると述べている。
  • また連邦政府もコスト引き下げを試みている。住宅都市開発省~ここが大部分(約9割)のリバース。モーゲージの保証を行なっている~が住宅の所有者が払うオリジネーション・フィーと抵当保険料の引下げを模索している。またジニーメイも10月にリバースモーゲージを証券化して販売すると発表した。通常の住宅ローンの場合、ジニーメイの保証がつくことで住宅ローン金利は0.5%から0.8%低くなっている。

米国では62歳以上の自宅所有者がリバース・モーゲージを利用することができる。その特徴を記事の中から列挙する。

  • 借り手は借入金の受取り方法について幾つかの選択がある。大部分の人は一度に借り入れることを選択するが、利用枠方式(Line of credit)を選択する人もいる。また毎月均等額を受取ることを希望する人もいる。
  • 連邦政府の保証はHome Equity Conversion Mortgage (HECM)と呼ばれる仕組みを通じて行なわれるが、この抵当権には自宅の価値に係らず上限がある。この上限を超える部分がある場合は典型的には「ジャンボ」と呼ばれるリバース・モーゲージになる。この部分は政府による保証はなく通常コストは高い。
  • 連邦住宅管理局によると1年間(06年9月末ベース)で76,351件のリバースモーゲージが実行された。これは前年比77%の増加である。また全体として現在のリバースモーゲージの半分は過去2年間に実行されたものである。とはいえ2005年1年間で実行された伝統的な住宅抵当貸付が740万件あったことに比べるとこの市場ははるかに小さい。
  • コストについて言えば貸し手はローン金額ではなく住宅評価額の2%のオリジネーション手数料を取る。また強制的な保証保険料が2%かかる。また借り手はその他伝統的な住宅抵当貸付において支払うようなコストを払わなければならない。従って25万ドルの価値の住宅でリバース・モーゲージを利用するとアップフロント費用は1万2千ドルを超える可能性がある。
  • 連邦政府の規則でHECMのプログラムを利用する人は、リバースモーゲージを理解を確実にするため金融カウンセリングを受けなければならない。バースモーゲージで多額の資金を受取る借り手に対して個人年金等の金融商品の販売を試みる業者がいることが懸念されている。一番リバース・モーゲージの実行が多いカリフォルニア州では最近州法でリバース・モーゲージの実行者が借り手に対して年金商品を売り込むことを禁止した。
  • 現在連邦政府が保証するリバース・モーゲージの上限は都市部で362,790ドルで地方で200,160ドルである。連邦政府は全国一律の上限に統一することを考えているがまだ提案は行なわれていない。
  • 政府保証のないジャンボの場合の実例でシアトル・モーゲージ社のプラグラムによると1百万ドルの価値の自宅を持つ68歳の人は約386,000ドルの借入を行なうことができる。一方政府保証プログラムでは住宅の立地により異なるが、108,000ドルから210,000ドルの範囲でしか借入を行なうことができない。

高齢化の速度が速い日本でもリバース・モーゲージの需要は高まるだろう。アメリカの状況など勉強しながら、商品開発等に何らかの提案を行なっていきたいと考える次第である。この記事を読んで一つ感心したところは、米国ではリバース・モーゲージのように複雑でリスクがある商品を販売する場合、消費者の安全性を高める工夫が立法化されていることだ。商品設計とはハード面だけではなくこのようなソフト面の工夫が大切なのだろう。

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