金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

投資銀行の凋落

2008年09月16日 | 金融

今週始めに二つの専業投資銀行が消えた。一つは連邦破産法下の破産手続きを申請したリーマン・ブラザース、もう一つはバンクオブアメリカに買収されることになったメリル・リンチだ。前者全米4位、後者は全米3位の投資銀行である。残る専業投資銀行はゴールドマンザックスとモルガンスタンレーだけになった。

専業投資銀行の凋落の原因を1999年のグラス・スティーガル法の廃止つまり銀行・証券の垣根廃止に求める声は多い。2000年秋にチェースが投資銀行のJPモルガンを買収した時から、リテイル預金を持たず運転資金を市場調達している投資銀行の弱点を指摘する声はあったが、懸念は8年後に現実のものとなった訳だ。これは90年代の日本の金融危機時代に資金吸収アームを持たない長銀や日債銀が破綻したことと重なる風景だ。

投資銀行が凋落した直接の原因は、CLOやCDOと呼ばれるストラクチャード・ファイナンスによる資金調達市場が崩壊したことによる。行き過ぎた直接金融から間接金融への回帰が投資銀行の資金調達を難しくした。

もう一つ付け加えるならば、伝統的な金融工学の限界を上げることができるだろう。デリバティブや金融資産の流動化の基礎になる金融工学とは何か?と問われれば、私は統計データに基づき将来の確実性(および不確実性)を計算する数学的手法と表現したい。将来起こりうることの確率は確率分布を示す曲線を積分することで計算される。一番分かり易い例は、起こりうることの分布が正規分布すると仮定して、標準偏差の何倍という形で起こりうることを計算する方法だ。これは計算は簡単だが、問題は金融的な現象は正規分布よりもっと裾野が広いファット・テイルと呼ばれる分布をすることが多いと呼ばれている。従って正規分布をベースにすると数十年何百年に1度しか起きないはずのことが頻繁に発生するのである。

一方人々の理解を超えたような複雑なモデルも、一度狂いを生じると広範囲にリスクを拡散する。このような金融工学の諸問題も投資銀行凋落の原因であると私は考えている。

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Close out (イディオム・シリーズ)

2008年09月16日 | 英語

Close outには「商品の早期売却のため、値引きをする」という意味と「清算する、完全に処分する」という意味がある。リーマン・ブラザースに関するニューヨーク・タイムズに次のような文章が出ていた。

Because derivatives are not subject to an automatic stay, their holders can slose out the arrangements with a party in bankruptcy.

デリバティブは(連邦破産法11章の)オートマチック・ステイの対象外なので、デリバティブ契約を持っているものは、破産者相手に契約の清算を行うことができる。

リーマン・ブラザースは連邦破産法に基づく破産手続きを申請した。その効果は総ての債権者に対して債権取立て行為が自動的に禁止されることにある。これをAutomatic stayという。ところが2005年に連邦破産法が改正され、デリバティブはオートマチック・ステイの対象から外された。この結果デリバティブ取引の相手方は、破産者と相対で契約の清算を行うことができる。ニューヨーク・タイムズによると、リーマン・ブラザースはデリバティブ契約で166億ドルのプラスになっている(つまりこの時点で総てのデリバティブ契約を清算するとこれだけの利益がでる)。だが同紙はこの利益をリーマンが確保できるかどうか不確かな点があると述べている。リーマンの破産は規模とともに、デリバティブ取引の複雑さから非常に複雑な様相を呈している。大きな債権者である邦銀も連邦破産法とリーマンの日本法人に関する日本の民事再生法について急ぎ知恵をひねらざるを得なくなった。

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リーマンに対する邦銀エクスポージャー

2008年09月16日 | 金融

9月16日火曜日東証は売り一色で始まる。邦銀株の下落も激しい。リーマンブラザースに対する邦銀の与信残高がファイナンシャル・タイムズやロイターで報じられた影響もあるだろう。それによるとリーマンブラザースに対する無担保与信残高(チャプター11申請ベース。グロスのエクスポージャー。7月2日現在)はあおぞら銀行が463百万ドル、みずほが382百万ドル、新生が231百万ドル、UFJ銀行が185百万ドル、三井住友が177百万ドル、中央三井が93百万ドル。

あおぞら銀行は早速「報道された与信残高はグロスベースで担保やヘッジを差し引くとエクスポージャーははるかに小さい」というコメントを発表している。私はこのコメントは概ね正しいと感じている。リーマンブラザースの信用状況について懸念が出たのは半年以上も前なので、邦銀が無担保で与信を続けてきたとは考え難い。

しかしながらあおぞら銀行の場合、GMAC(GMの金融会社)に対する投資損失から当期利益見込みを2回も大幅に引き下げているので、市場は疑心暗鬼になっているのだろう。

いずれにせよリーマンやAIG等問題を抱える欧米系金融機関に対するエクスポージャーの多寡がしばらく話題になりそうだ。

コメント (1)
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