今週始めに二つの専業投資銀行が消えた。一つは連邦破産法下の破産手続きを申請したリーマン・ブラザース、もう一つはバンクオブアメリカに買収されることになったメリル・リンチだ。前者全米4位、後者は全米3位の投資銀行である。残る専業投資銀行はゴールドマンザックスとモルガンスタンレーだけになった。
専業投資銀行の凋落の原因を1999年のグラス・スティーガル法の廃止つまり銀行・証券の垣根廃止に求める声は多い。2000年秋にチェースが投資銀行のJPモルガンを買収した時から、リテイル預金を持たず運転資金を市場調達している投資銀行の弱点を指摘する声はあったが、懸念は8年後に現実のものとなった訳だ。これは90年代の日本の金融危機時代に資金吸収アームを持たない長銀や日債銀が破綻したことと重なる風景だ。
投資銀行が凋落した直接の原因は、CLOやCDOと呼ばれるストラクチャード・ファイナンスによる資金調達市場が崩壊したことによる。行き過ぎた直接金融から間接金融への回帰が投資銀行の資金調達を難しくした。
もう一つ付け加えるならば、伝統的な金融工学の限界を上げることができるだろう。デリバティブや金融資産の流動化の基礎になる金融工学とは何か?と問われれば、私は統計データに基づき将来の確実性(および不確実性)を計算する数学的手法と表現したい。将来起こりうることの確率は確率分布を示す曲線を積分することで計算される。一番分かり易い例は、起こりうることの分布が正規分布すると仮定して、標準偏差の何倍という形で起こりうることを計算する方法だ。これは計算は簡単だが、問題は金融的な現象は正規分布よりもっと裾野が広いファット・テイルと呼ばれる分布をすることが多いと呼ばれている。従って正規分布をベースにすると数十年何百年に1度しか起きないはずのことが頻繁に発生するのである。
一方人々の理解を超えたような複雑なモデルも、一度狂いを生じると広範囲にリスクを拡散する。このような金融工学の諸問題も投資銀行凋落の原因であると私は考えている。