金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

「金融レポート」を深読みすれば見えてくる国民の資産形成問題の障壁

2016年09月21日 | 金融

 

金融庁は9月中旬に「金融レポート」を発表した。以前よりも消費者寄りの姿勢になっていて中々興味深い。

中でも「国民の安定的な資産形成の促進:『貯蓄から資産形成へ』」は我々に直結する部分なので、少し詳しく読んでみた。

概論として金融庁は次のように書き出す

  • 我が国の家計金融資産は増加傾向にあり、2015年末で1,700兆円を超えている。・・・現預金は約900兆円に達している。
  • 米国と資産構成内容を比較すると米国では株式・投信等を直接保有している比率が3割を超えているのに対し、我が国では1割強に留まっている。

別に他国のことは他国のこととして、真似はする必要もないという意見もあるかもしれないが、資産構成比率の違いは家計所得の源泉に大きな違いをもたらしている(筆者コメント)。

  • 米国では家計所得のうちの勤労所得と財産所得の比が概ね3:1で推移し、家計をサポートしているが、日本では8:1で財産所得が家計所得に貢献できていない。

ということで金融資産の構成を変えることで、もっと家計所得を増やすことができるはずだというのが金融庁の意見

ではその阻害要因は何だろうか?

金融庁はまず家計の金融・投資リテラシー不足を指摘し、投資教育の重要性を指摘する。重要な課題ではなるが、今回の論点から外れるので言及しない。

次に金融庁は金融商品やサービスを提供する金融機関側の問題をいくつか指摘している。

例示的に言えば次のような点だ。

  • 例えば(投資信託の)販売会社については、短期的な手数料収入等の足元の利益を優先させるあまり、顧客の長期的・安定的な資産形成に貢献し、そのことにより自社の収益基盤の拡大も図っていく、という姿になっていない状況が推察される。
  •  銀行において、投資信託販売額や収益が増加してきた一方、残高や保有顧客数が伸び ていない状況を見ると、今なお、いわゆる回転売買が相当程度行われていることが推測さ れる。

  • (総合的に見て) 金融機関においては、短期的な利益を優先させるあまり、顧客の 安定的な資産形成に資する業務運営が行われているとは必ずしも言えない状況にある。

 だが私は金融庁が声高には指摘していないある点を問題視したいと考えている。

我が国の投資信託は、米国のものに比べ、1本当た りの規模が小さく、設定以来の年数が短く、手数料が高いという結果となっている。また、 長期的に見た場合(10 年間)の運用結果(収益率)にも大きな違いが出ている

という点だ。

以下の図は金融レポートからコピーしたもので、日米の純資産額が大きい5つの投資信託について比較したものだ。

次のようなことが分かる。資産規模で米国投信は日本の20倍。販売手数料は日本が米国の5.4倍。信託報酬は日本が米国の5.5倍である。

なお過去10年の平均的な収益率は「販売手数料を加味」したものである。資産規模の大きい投資信託の運用内容は相当違う(米国はインデックス運用が多く、日本はテーマ型のアクティブ運用が多い)ので、ここでは運用内容までは踏み込まない。ただ過去10年において米国で投資信託を買った投資家はハッピーで、日本の投資家はアンハッピーだったということになる。

ここで問題としたいことは「日本の投資信託は運用規模が小さく、販売手数料や信託報酬が高い」という点である。

パッシブ運用の場合は資産規模の大小がコスト比率に直結し、信託報酬に大きな影響を与える。つまり「国民の資産形成上根幹となる株式等のパッシブ投資信託で規模の小さいファンドしか存在しない」ということは壮大な無駄ではないか?と私は考えている。

つまり規模の利益を享受できていないのである。

もし金融庁が本気で「貯蓄から投資」を推進するのであれば、その受け皿となるパッシブ投資信託(具体的にはETF)を作るように強力なイニシアティブをとるべきだろう。

ETFは株式と同様取引所で売買されるから、売買委託手数料は0.1%(ネット証券の場合)程度と投資信託の販売手数料に比べて極めて低い。

実は証券会社がETFの販売に熱心でないのは、投資信託の販売の方がはるかに儲かるからである。

この低成長・低金利の時代に資産形成につながる投資の鉄則は、同じリスクであれば徹底的に低コストの商品を利用することである。

消費者が販売手数料や信託報酬の低い商品の選択を強めれば、小規模で割高な投資信託やそれを販売している証券会社や銀行は淘汰され行くはずだ。金融庁が守るべきは高コスト体質の投資信託や販売会社ではなく、投資家なのである。

 

コメント (1)
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