移民の問題は米国の大統領選挙の大きな争点になっていることはご存知のとおり。日本でも政府が今日(9月27日)開催する「働き方改革実現会議」で、単純労働者の受け入れに向けて門戸を開く法改正を提言する予定だから、議論を呼ぶだろう。もっとも日米では移民の規模や移民に求める役割が異なるので、異なった議論になるだろうが。
さてWSJによるとThe National Academics of Sciences・・が、移民の経済的影響に関する調査結果を発表した。その結論は一般的言われている「移民は米国市民の仕事を奪う」という話とは反対で、全体的には移民は米国経済の拡大に貢献するというものだった。
確かに移民の初期の段階では、低教育・低スキルの移民が流入し、そのセグメントの米国市民の仕事を奪ったことが確認される。
しかし移住してくる人の教育レベルは向上を続けており、2012年時点では移民の53%は大卒(中退を含む)レベルで、16%は大学院卒レベルである。
つまり米国に移住してくる人は、自国において高い知識・技能を活用する場がないので、米国に活躍の場を求めて移住してくる。その結果移民はイノベーション、起業、技術革新といった経済成長に結びつく活力を米国に与えるとレポートは結論付けている。
もっともこのレポートは合法的な移民と非合法的な移民を区別して、データ分析を行っていない(区分別のデータがないそうだ)という弱点はある。
米国の移民の数は2014年時点で42.3百万人で全人口の13%を占める。20年前の1995年の移民人口比率は9%だったから確実に増加を続けている訳だ。なお2014年時点で非合法的な移民の数は11.1百万人と言われている。
移民をポジティブにとらえる人の割合も増えている。WSJ/NBC Newsの世論調査によると、先週水曜日の時点で「移民は米国を傷つけるより助ける」と言う人は54%だった。10年前の調査では助ける45%、傷つける42%だったから世論の見方も変わっているのだ。
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今日本で議論され始めた外国人労働者の受け入れ拡大は、介護・育児・建設など人手不足が目立つ単純労働の分野なので、米国のようにハイスキルの移民が流入して、経済にイノベーションを起こす可能性はない。
ただし「移民が国内の労働力を奪う」といった観念的・感情的な議論は避けて、少し長い目で移民が経済成長にプラスになるかどうかを議論するべきだろうと私は考えている(私は明らかにプラスになると考えている)。
色々な問題を含みながらも米国が経済成長を続けている最大の理由は、ポピュリズムに流されない、データに基づいた議論を展開できるところにあるのだろう。