中国の根本的なリスクは「豊かになる前に老いること」にある、という指摘は今に始まったことではない。しかし最近の国家統計局のデータを見ると改めて、人口動態上のリスクが浮き彫りになる。
WSJはChina's demographic danger grows as births fall far below forecastでこの問題を取り上げていた。
中国は2015年10月の5中全会で長年の一人っ子政策を廃止した。しかしその効果は芳しくない。
国家統計局によると2018年の新生児の数は1523万人で2017年より2百万人減少した。また政府が予想していた中央値よりも3割も少ない。
キャピタル・エコノミクスのアナリストは「人口動態の概観は政府予想より速いペースで悪化している」と述べている。
1970年の中国の平均年齢は米国よりも10歳近く低かったが、2015年までに中国の平均年齢の方が米国より高くなっている。
現在中国では1人の高齢者を2.8人の現役層が支えている。これはほぼ米国と同じ水準だ。因みに財務省のHPによると日本では65歳以上の高齢者1人を2.2人の現役層が支えている(2014年現在)。中国政府の推計では2050年までに中国では1人の高齢者を1.3人の現役層が支えると予想されている。
この1.3人の現役が1人の高齢者を支えるという構造は奇しくも日本の内閣府の予想(2065年には現役1.3名対高齢者1人)と一致している。
少子高齢化はアメリカでも頭痛の種だがペースは日中より遅い。アメリカでは2035年までに1人の高齢者を2.2人の現役が支える時代がくると予想される。
高齢化の進行は政府の経済政策の手足を縛る。景気浮揚を目指して減税政策を取ろうと思っても、減税して財政収支が悪化すると積立不足を起こしている年金基金の財政がさらに悪化するからだ。
W"SJによると中国の年金システムは高齢者の9割以上をカバーしていると考えられる。地方政府は独自の年金システムを運営していて、企業が掛け金を拠出している。しかし多くの基金は積立不足で2020年までに不足額は1630億ドル(1.1兆元)に達すると見込まれると国泰君安証券のアナリストは予想する。
中国政府は年金システムの中央集権化を図り、企業からの掛け金徴収を強化しようとしているが、掛け金徴収が強化されると多くの企業の利益を圧迫し、企業がレイオフに向かう可能性もある。
中国のリスクは「豊かになる前に年老いる」ことだが、より具体的には年金債務等各種の多額の債務を抱え、返済目途が立たないまま労働人口が減少することにあるのだ。
なお中国の退職年齢は男性60歳女性55歳と世界的に最も若い。退職年齢を引き上げることで年金債務の拡大を抑えることは可能だが、それは若年層の失業につながる可能性がある。
中国の将来は明るくない。もっとも巨額の財政赤字を抱えながらなお社会保障費の増加に苦しむ日本にとっては、他人のことを心配するよりまず頭の上の蠅を追い払う必要があるのだが。
ただし投資の観点からは中国の本質的問題は押さえておく必要がある。