日銀は3月19日に17年ぶりにマイナス金利の解除を決定した。これにより市中銀行が日銀に預けている当座預金勘定に0.1%の金利が付き、無担保コールの水準が0.1%に誘導されることになる。市中銀行の中にはこれに合わせて普通預金の金利を引き上げると発表したところがある。三菱UFJ銀行は金利を0.02%に引き上げると発表した。100万円預けて1年後に200円(税込み)の利息が貰えることになるが、バス代にも満たない家計の足しにならないことはいうまでもない。
世界中で一番最後までマイナス金利に固執していた日銀がマイナス金利の廃止に動いたのは、インフレ率が日銀ターゲットの2%を超えてきたことと連合が発表した春闘の結果がインフレ率を上回ってきたことにある。15日に連合は発表したベアと定期昇給分を合わせた賃上げ率は5.25%だった。
日銀のマイナス金利を取りやめたことは、海外の投資家にもインパクトのある話ではないか?と思っていたが、WSJの記事などを見るとまことにそっけない。
曰く、マイナス金利は円安を招き、輸入物価の上昇を通じて多少インフレ率の向上に貢献したが、物価政策にそれほど有効な策ではなかった。結局物価を押し上げたのは、コロナウイルス感染拡大とロシアのウクライナ侵攻によるサプライチェーンの機能不全だった。
日本が失われた20年問題に悩んでいた時、「マイナス金利を含む大規模な金融緩和策」を強力に推奨したのは、アメリカだった。だがそのアメリカの経済紙は、マイナス金利政策って結局大した効果はなかったんだ、とまことにそっけない。
為替レート特に先物レートは通貨間の金利差によって決まると言われている。一方もう少し長いトレンドで通貨の価値を決めていくのはインフレ率だ。物価上昇率が高いと通貨の価値は下落する。
今回日銀がマイナス金利の廃止を発表した途端に円は激しく売り込まれた。対ユーロでは2008年以降の円安になり、対ドルでも4カ月ぶりの円安になり一時151円台まで円安に振れた。
先に述べた通り内外の金利差の縮小は円高につながるはずだ。米連銀は年内に3回の利下げげがあるという見方を打ち出し、FOMC後に6月に利下げがあるという予想は75%に拡大した(FOMC前は50%)。
これだけを見るとドル売り円買いが起きても不思議ではないが、マーケットは逆の動きだ。
その理由の一つは、マイナス金利の廃止を含む金融緩和策の転換(ETFや不動産投資信託の購入中止や長期金利の上昇を抑えるイールドカーブコントロールの中止など)が、日本のインフレを持続させ、場合によっては金融市場の混乱を招くリスクを直感的にマーケットが予知したのではないかと私は感じている。
日銀や政府の発表を見ていると、物価は上昇しているが、賃金はそれを上回る上昇をしているからOKだいう論調だが、これは人口の3割近くを占めるシニア層の生活や非正規雇用者層の生活を無視した意見なのだ。
多くのシニアにとって普通預金に金利が、少々上がるより、目の前の物価が上昇する痛みの方がはるかに大きいはずだ。
また円安のため輸出産業は増収増益になり、賃上げ余力が高まるが、内需型産業までその恩恵が十分届いているかは不明だ。
といって私は日銀のマイナス金利廃止に反対している訳ではない。マイナス金利は異常なものであり、過ちは改めるにこしたことはないのである。
異常というと中央銀行による企業株式の購入も異常であり、これまた改めるにこしたことはないのである。だがこれは株価を下げる可能性が極めて高い。
これらのことを考えると「円はまだ安くなる」という思惑が働いても不思議ではないだろう。