本棚を整理していると数年前に買った「老後のお金」(文芸春秋編 文春文庫)という本がでてきた。
パラパラめくってみると橘怜さんが「シニアにもできる『正しい投資法』と『ど素人投資法』」という話を書いていた。
ポイントは次の通りだ。
正しい投資法とは、インデックス(市場平均)に投資することだ。でもそれでは面白くないという人は「株のことなどなにひとつ知らないど素人に投資対象を決めてもらうことだ」と橘氏はいう。
「ど素人に投資対象を決めてもらう」というのは、無茶苦茶な話に聞こえるが、これは一種のレトリック。もう少し読むと「スマートフォンの一覧からみんながアイフォンを選べば、アップルの株を買う」「スターバックスが一番人気ならスターバックスの株を買う」と書いている。
つまり投資家目線ではなく消費者目線で銘柄を選択するという訳だ。そして「バカバカしいと思うだろうが、この「直観的」な投資法は実際にやってみると、投資のプロはもちろん市場平均おも上回ることができるのだ」(ゲルト・ギーゲレンツァー「なぜ直観のほうが上手くいくのか」)と説明している。
私はその参考図書を読んだことがないし、特段読んでみようとも思わない。そもそもある投資手法が他の方法より当たるということを実証することは極めて難しい。
チャーチストは株価チャートがこのような形になれば買いのシグナルだとか売りのシグナルだとかいう。そして幾つかの実例を示して「買い時だった」とか「売り時だった」と教えるのである。しかしそれは後講釈というものだ。なぜなら同じようなパターンがチャートに現れてもその後の相場展開は違うことが多いからだ。つまり説明する人は自分の理屈にあうパターンだけを示しているのである。
橘氏の例も然り。アップル株はその後市場平均を上回るパフォーマンスを上げているが、スターバックス株のパフォーマンスはダウ平均を下回っている。
「ど素人の直観的な投資方法が市場平均を上回る」という説は眉唾物だと考えてよいだろう。
ただし投資のプロ中のプロと言われているウォーレン・バフェット氏がアマゾンやグーグル(アルファベット)の株を持たなかったことを残念がっているのも事実。アマゾン株にひと財産を投資していた人がいるとすると、バフェット氏が目をむくような成果を上げている。
アマゾン株というのは、PERなど従来の投資尺度では投資しにくい銘柄なのだ。「アマゾンが本を買っている」「キンドルで本を読んでいる」「音楽も聞く」「なんでもすぐ配達してくれるからアマゾンが好き」「アマゾンはなにか大きなことをやりそうだ」という「直観的な判断」で買われてきた株なのだろう。
もっとも潤沢なキャッシュフローは新しい投資や積極的なM&Aを可能にしているから、「従来の投資基準では投資しにくい」という投資基準を見直す必要があるかもしれないが。
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そもそも正しい投資方法って何なんだろう?
私は世界的な経済成長の分け前に預かり、長期金利を若干上回るリターンを持続的にあげる投資と考えている。それはグローバルな株式・債券のバランス運用によってのみ可能なのだろう。
可能だけれど、この手法は退屈で面白くないことも事実。そもそも投資はばくちではないから退屈なものなのだ。
そして退屈しのぎに損をしても困らない範囲で「素人的に好きな銘柄」を買うことは悪くないと思う。株を持っているとその会社のことを調べ、その商品やサービスを調べ、業界を調べ、経済を勉強する機会が増えるからだ。ただ投資結果については淡々とするべきだろう。
アマゾン株を持っていて高いパフォーマンスを上げている人は運がよかったと考え、持っていなかった人は運がなかったと思えばよい。
世界は広いから、次のアマゾンに巡り合うチャンスはあるだろう。
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