昨夜のNHKテレビ「ドキュメント北朝鮮・第2集」を見ていて思いだしたことがあります。
地方の放送局で報道記者をしていた1970年代後半のこと。報道部長に呼ばれて「今度、民放各社が北朝鮮に呼ばれて取材することになった。うちからはお前に行ってもらうかもしれない」と言われたのです。きっと居なくても日常業務に差支えないので、私あたりを選んだのでしょう。
当時、北朝鮮は内実のわからない「神秘の国」でしたので、取材には興味がありました。準備のためと渡された「主体思想」や「千里馬(チョンリマ)運動」に関する文献を少しかじった記憶があります。
しかし、その取材の話はいつの間にか立ち消えになってしまいました。どこでどういう判断が働いたのか、私にはわかりませんでした。
今から思うと、行かなくて良かったのです。若い私に、北朝鮮の真実と宣伝とを見分ける眼力があったとは思えません。先方の見せたいものだけを見せられ、聞かせたいことだけを聞いて帰るような結果になったでしょう。そんな取材結果を放送すれば、一生後悔したはずです。
昨夜の放送でこのことを思い出したのは、その当時、北朝鮮が「南」に対する政策を変え、「南」へ直接はたらきかけるのではなく、日本経由で影響を及ぼそうとするようになったと説明していたからです。時期的にぴったり符号します。
おそらく、民放各社を招請しようとしたのは、そうした政策の一環だったのでしょう。
同時に、当時は誰も知らなかったのですが、日本各地で民間人が拉致されていたのです。
振り返ると、あの北朝鮮取材の話は、唐突で、違和感のあるものでした。その裏に何があるのか、疑問を突き詰めてゆけば、もしかしたら何かを感じ取ることができたかもしれません。
ささいなことでも「おや?」と思った時、その原因を調べてみるのが大事だと思いました。