カート・ヴォネガット氏の訃報に接する。
生涯最愛の作家でした。1984年5月に国際ペンの東京大会に来日されたおり、〈SFマガジン〉の仕事でインタビューできたことは人生最大のイベントのひとつ。
生涯最愛の作家でした。1984年5月に国際ペンの東京大会に来日されたおり、〈SFマガジン〉の仕事でインタビューできたことは人生最大のイベントのひとつ。
もう23年も前のことなので記憶はおぼろなのに、一部、とても生々しかったりもします。
小雨の京王プラザホテル。
口の端に咥えていた老眼鏡。
「シメオカだ!」といって、嬉しそうに見せてくれた壷(その時はわからなかったのですが、人間国宝・島岡達三さんの焼き物でした)。
「おまえの書いている小説は責任のもてるものか?」という問い。
後で知ったのですが、あの時のヴォネガットさんは自殺を図って、ほんの何箇月か経ったばかりだったのでした。
今から思うと、一度だけ、すごく辛そうな表情を見せた瞬間がありました。でも、それ以外は気さくで、しゃべり上手で、よく笑う、機嫌のよい大男でした。
『猫のゆりかご』に始まる彼の小説を読まなければ、私の文学観はずいぶん違ったものになっていたかもしれません。ヴォネガットさんがこの世にいてくださったことに感謝。小説を書いてくださったことに感謝。ボコノン教や拡大家族、その他の色々なことを教えてくださったことに感謝。
享年84。ご冥福をお祈りします。
あの時、お土産に差し上げたお箸は使ってくれたかなあ……。