惑星ダルの日常(goo版)

(森下一仁の近況です。タイトルをはじめ、ほとんどの写真は交差法で立体視できます)

ヴォネガットさん

2007-04-12 20:35:15 | 本と雑誌
 カート・ヴォネガット氏の訃報に接する。
 生涯最愛の作家でした。1984年5月に国際ペンの東京大会に来日されたおり、〈SFマガジン〉の仕事でインタビューできたことは人生最大のイベントのひとつ。

 もう23年も前のことなので記憶はおぼろなのに、一部、とても生々しかったりもします。
 小雨の京王プラザホテル。
 口の端に咥えていた老眼鏡。
 「シメオカだ!」といって、嬉しそうに見せてくれた壷(その時はわからなかったのですが、人間国宝・島岡達三さんの焼き物でした)。
 「おまえの書いている小説は責任のもてるものか?」という問い。

 後で知ったのですが、あの時のヴォネガットさんは自殺を図って、ほんの何箇月か経ったばかりだったのでした。
 今から思うと、一度だけ、すごく辛そうな表情を見せた瞬間がありました。でも、それ以外は気さくで、しゃべり上手で、よく笑う、機嫌のよい大男でした。

 『猫のゆりかご』に始まる彼の小説を読まなければ、私の文学観はずいぶん違ったものになっていたかもしれません。ヴォネガットさんがこの世にいてくださったことに感謝。小説を書いてくださったことに感謝。ボコノン教や拡大家族、その他の色々なことを教えてくださったことに感謝。
 享年84。ご冥福をお祈りします。

 あの時、お土産に差し上げたお箸は使ってくれたかなあ……。