惑星ダルの日常(goo版)

(森下一仁の近況です。タイトルをはじめ、ほとんどの写真は交差法で立体視できます)

キノコ・コケ・タケ・ナバ

2009-12-09 21:01:53 | うんちく・小ネタ
 6日の日記で言及した木村紀子さんの『原始日本語のおもかげ』(平凡社新書)は、いくつかの言葉をとりあげて古い時代の日本人の言葉遣いや、思考方法に迫る好著です。
 中でも「タケ(キノコ)にあたる」という章が特に興味深く感じられました。

 要は、かつてキノコを何と呼んでいたかということの考察で、「キノコ」という言葉は室町時代以降になって文献に現れたものだそうです。
 それ以前は何と言われているかというと、基本的には「タケ」。「クサヒラ」という語も見られるが、「タケ」と同義ではなく、食用の山菜類を指す貴族語だったのではないかと、木村さんは推察しています。

 さらに昭和30年代の調査にもとづく『日本方言大辞典』(小学館)の「きのこ(茸)」の方言地図が引用されています。これを眺めていると、いろいいろと妄想が湧いてきて面白いのです。

 基本的には「キノコ」「コケ」「タケ」「ナバ」の4地域に分けられ、「キノコ」は東北から関東、東海地方で使われています。東国の言葉だったのですね。ただし、四国の徳島も「キノコ」なのが興味深い。

 「コケ」は新潟から北陸、岐阜あたり。木村さんは縄文時代からの大国「コシ」の勢力圏にほぼ重なると書いています。

 「タケ」は出雲から丹波、兵庫、岡山にかけて。飛び地が松山と伊勢にあるのも、これまた大変に興味深い。

 「ナバ」は南方語らしく、琉球、奄美から九州全域、山口、広島あたり。四国では宇和島と高知県で使われています。暖流に乗って流れ着いた言葉のように思えてきます。

 太古の文化圏というか、日本人を形づくった民族が見えてくるような気がするんですよね。
 この本にはほかにも「つくし(土筆)」「数える」の方言地図が引用されていますが、それらはまた別の分布をしていて、これまた面白い。方言地図をじっくり調べてみたいものです。