すごく刺激的でおもしろい。時空の中で生きる自分をこんなに意識させてくれる本はそんなにないと思いました。
物理学をやっている人には当たり前のことから始め、生命論・意識論へと進んでゆくのですが、最初の「当たり前のこと」からして私には刺激的。
縦軸に時間をとり、横軸に空間をとった「世界線」の説明の部分なのですが、「時間は実数、空間は虚数」とあります。どちらかというと素人には逆に思えるのですけど、そうではないらしい。
で、読むと納得。勝手にくだいていうと、自分の過去は自分のものであり、未来は自分でコントロールできる。だから「時間は実数」。しかし、空間的に離れた存在――つまり他人は、自分ではコントロールできない。自分が勝手にどうこうできるものではないから「空間は虚数」。
ちがっているような気もしますけれど……。
ともかく、量子論的世界には存在しない「時間」が、マクロの世界ではなぜ存在してしまうのか。その答えをエントロピーと生命とを絡ませて探り、著者ならではの説に到達する。
実は、私も生命や意識は時間と切り離して理解することは不可能だと考えていました(本当です!)。ただ、それをどう説明すればいいのか、まだうまい言葉が見つからない。
橋元さんは、橋元さんなりの言葉で結論を出している。
いや、もしかしたら究極の結論ではないかもしれません。生命の誕生のところで、突如として「意思」というカッコつきの言葉を使っているあたりに、まだ何か隠されているような気がします。
しかし、そんな部分を含めて、とてもこちらを刺激する本であることは間違いない。科学する心が宇宙と自分という哲学へつながる、スリリングな読書体験でした。