金融そして時々山

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中国とインド~中国の高成長は例外的なのか~(3)

2005年04月13日 | 国際・政治

「中国の成長は東アジアでは例外的なものではない」という研究のサマリーが4月12日のフィナンシャル・タイムス紙に出ていた。そのサマリーを紹介するとともに研究が論及していない問題点を述べてみよう。

研究は歴史経済学者Angus Maddison氏のものである。

  • 中国のGDP(購買力平価ベース、以下同様)は、1987年から2004年の間に370%、年率換算6.1%で拡大している。日本のGDPは1950年から1973年の間に460%、年率換算8.2%で拡大している。韓国のGDPは1962年から1990年の間に680%、年率換算7.6%で拡大している。台湾のGDPは1958年から1987年の間に600%、年率換算7.1%で拡大している。中国の経済成長はアジアの隣国に較べて特段眼を見張る程のものではない。
  • 更に中国が経済成長を続けると信ずべき3つの理由がある。
  • 最初に経済成長速度は「ある国の生産性が世界の最先端レベルからどれだけ遅れているか?」ということの関数であるが、中国の成長が始まった時、中国の一人当りGDPは米国の12分の1であった。
    これに較べて1950年の日本の一人当りGDPは、米国の5分の1であった。
  • 第2に中国は、日本・韓国・台湾同様、急成長のための材料~勤勉、安い労働力、生産性の低い農業から生産性の高い工業へ労働力をシフトする能力~を盛っている。
  • 第3に中国は異常に高い固定資本投資率~GDPの40%以上~を持っている。中国の現在の一人当りGDPは韓国の1982年、台湾の1976年、日本の1961年レベルである。それらの時点の固定資産投資率は、韓国、台湾で30%以下、日本では32%であった。従って中国の経済成長速度はもっと速いはずであるが、そうなっていないのは「投資効率の低さ」故である。
  • 投資効率を測る方法は「限界投資効果」~追加的生産を行うのにどれだけ投資が必要か~であるが、中国のそれは5であり、日本の高度成長期は約3、韓国、台湾は2と3の間だった。
  • その他の非効率性の証拠は銀行システムにおける不良債権の高さである。この不良債権の問題は、第一義的には国営企業に供与された与信の多さで説明される。IMFのエコノミストによれば、1991年から97年の間に私企業に投下された資本の割合は、15~27%であった。にも係らずこの間雇用の56%は私企業が創出している。
  • 中国がこのペースで成長を続けるにしても、一人当りGDPで日本に追いつくには25年以上かかる。中国は未だ成長途上である。

以上が大体の論点である。

これに対して

  • 中国の不良債権問題の重さはどれ位のものなのか?
  • 投資効率の悪さは、特に石油等天然資源との関係でどう考えるべきなのか?
  • この研究では述べられていないが、私見では中国の高成長を可能にした一つの要因は「少子化政策」であると見ているが、今後「少子化政策」の悪影響はどうでるのか?
  • 「自由より開発を優先する」政策を取ってきたが、生活レベルの向上とともに、自由への希求が拡大し、私権が拡大すると経済成長速度が低下するのではないか?

等々様々な疑問が出てくる。

なお中国の経済成長速度が、近隣諸国の過去の例から見て決して驚くべきものではないということは分かるが「その規模において」やはり比類のないものであることも注意しておくべき点であろう。

次回はできれば「不良債権問題」を少し見てみたい。

コメント
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