今月末の小泉首相のインド・パキスタン等訪問でインドへの関心が高まりそうだ。
今日はインドのITの中心であるバンガロールについて最近のエコノミスト誌の記事を紹介したい。そのタイトルは「バンガロールの矛盾」~The Bangalore paradoxである。6ページにわたる長い記事なので要点を他のデータ等で補いながら簡単に紹介する。
バンガロールの概要
- バンガロールはインド南西部のカルナタカ州(Karnataka)の州都。250以上のIT関連企業が拠点を持ち「インドのシリコンバレー」と呼ばれる。(カルナタカ州の公式HPより) バンガロールの人口は公式HPによれば652万人。バンガロールはインドで最も急成長している都市である。
- エコノミスト誌によれば、バンガロールはインドのIT関連輸出の3分の1を占め、ITサービスとアウトソース(コールセンター等)関連の従業員は265千人。これはインドの当該業界の従業員の約3分の1を占める。
- バンガロールの標高は海抜920m、最低気温は14度C最高気温は33度Cと過ごしやすく、かっては駐印英軍や退職者の保養地として有名。
- 「世界クラスの大学」を含め教育施設は充実。バンガロールには24の工科大学がある。因みにカルナタカ州全体では77の工科大学があり年間27千人の卒業生がいる。
公共投資が遅れるバンガロール
上記のような予備知識の上にエコノミスト誌が指摘するバンガロールの問題点を見てみ る。
- 昨年5月のカルナタカ州知事選挙で「都市重視派」(前職)が負け、「草の根派」のSingh氏が知事に選ばれた。カルナタカ州では台風被害が連続して、困窮した農民が高利の金を借りその結果、700名以上の自殺者が発生した。新知事はバンガロールのインフラ整備に重点を置かず、かつ同州への製品持ち込みに対して13.5%の「持込税」(entry tax)を課すことにした。
- バンガロールも他のインドの都市同様上道路網の不備、下水道の不備、電力供給の不安定さ等インフラの不備を抱えているが、同市に特徴的なことは経済発展速度が速いため、数ヶ月のインフラ整備の手抜きが修復に数年を要する事態を招くことである。
- 新しい知事も現在では少なくとも「ビジネスに対してフレンドリーな」ふりはしている。前述の持込税も撤廃された。
- インフラ不備への不満は交通・空港とホテルの不足に集中してきている。現在州政府は新しい道路建設の予算を組み、都市圏鉄道システムも計画されている。ホテルについては新たに2,000室相当のホテル(複数)が建設中である。ホテルの部屋代は2年前の4倍の400ドルになっている。
バンガロール以外の選択肢はあるのか?
- バンガロールは「自己の成功の犠牲」となり以前より魅力が大きく減少している。そこでインドの企業や外国企業はバンガロール以外にIT産業の立地場所を探すことを試みた訳だが、結論から言うとITの頭脳部分の仕事についてはバンガロールに代替する場所はないようだ。ただしコールセンター等アウトソース業務を引き受けうる場所は他にもある。
- コンサルタント会社ガートナーは、外国企業がアウトソース業務を行う上で魅力性からインドの都市を4分類している。一番目のクラスには、バンガロール・デリー・ムンバイがあり、それに順ずるところ所としてガルガオン・ノイダ・チェナイ(旧マドラス)・ハイデラバード等が上げられている。
- 実際大部分のインドのIT会社は、各地にオペレーションを分散している。コストの高い頭脳部分の仕事はバンガロールに置くがより単純な仕事はそれ以外の労働力が安い都市に持っていくという具合に。
インドのIT・アウトソース業界の将来
インドのIT・アウトソース業界の将来は明るい。それは以下の理由からである。
- 現在成功している垂直的なサービスの品揃え
- 将来の拡大の可能性。オフショアでのソフトウエア開発は大きな成長余地がある。若いアウトソース業界はまだ自らの輪郭を示している段階である。インドが米英企業のコールセンターになっていることは有名だが、リサーチ・開発もアウトソースされつつある。保険の支払請求の処理、デスクトップパブリッシング、ITネットワークの遠隔地管理、複雑な税還付処理、金融分析等々アウトソースの対象になりうる業務はほとんどきりがない位ある。
- ATカーニーは、数年の内に多国籍化している大手金融サービス会社が20~25%の従業員をインドに置くことは普通のことになると言う。
- インドの最大のライバルは中国とフィリッピン~英語を話す業務については~である。両国は価格面での競争力はあるが、毎年英語を話す卒業生を2百万人供給する点でインドの敵ではない。
- マッキンゼ―の予測では、インドのIT・アウトソース業界は2008年までに570億ドル~650億ドル(2004年は170億ドル)を輸出で稼ぎGDPに7%の貢献(現在は4%)をする。
- もっともインドの問題は、ITエンジニアの供給にある訳ではない。現在手作業で処理されているソフトウエア開発は5~7年位の間に自動化されると調査会社は予測している。問題は「プログラマー軍団を誰がビジネスマンの集団に変えるか?」である。
最後にエコノミスト誌は「インドのIT業界は、部分的には政府の関与を避けることで発達してきたが、(インフラ整備等で)今や政府の関与が必要になってきた」と述べている。