滅多に読まない新聞の読者投書欄だが、今朝たまたま読売新聞の投書欄に70代の元大学教授が役所などに提出する職業欄に無職と書かされるのに抵抗を覚えるという一文を寄せているのが目にとまった。
日本ではあまり一般的ではないと思うが、退職者は職業欄に無職ではなく、年金生活者と書くのが海外では一般的だという話を聞いたことがある。日本人でも退職者が海外旅行をするとき、職業を記入する場合は「無職」ではなくPensionerと書くべきだと言われている。無職と書くと収入がない人だと思われ、入国管理局などが不安になるからだ。
私は昔企業年金関係の仕事をしていて、米国のステートストリートと一緒に仕事をしていたことがある。ステートストリート銀行は年金や投資信託といった信託業務を取り扱う米国の大手信託銀行だが、その幹部は常に「自分たちは年金業務を通じて退職者たちの尊厳を維持することを目指している」とコミットメントを述べていた。
米国流のレトリックがあることは割り引いて考える必要があるが、独立した収入源(政府や家族に頼らない)が退職者の尊厳を確保していることは間違いない。
年金、少なくとも企業年金は退職金の延払いであり、退職金は給与の後払いであることを考えると年金は決して誰から与えられる「恩給」ではなく、自分が稼いだお金なのである。
Pensionには年金という意味の他、家族経営の小規模宿泊施設という意味もあるが、語源は同じらしい。つまり退職した人が将来の収入のために、自宅などを改装して宿泊施設にしたことによるという。
中国の古典(管氏)に「衣食足りて礼節をしる」という言葉がある。生活が豊かになるとおのずと道徳心が向上するという意味だ。古代ローマは市民層が崩壊したことにより滅亡した。
これからますます高齢化が進む日本では「高齢者」としっかり市民と位置付ける必要がある。無職と書くよりはpensionerと書く方が良いと私は考えている。