世界銀行は今年1月に「世界経済の成長率は、今年末までに5年間のGDP成長率が過去30年で最低の水準になるどろう」という予想を示している。
実際世界経済はぱっとしない。日本は昨年10月~12月の四半期のGDP成長率はマイナス0.1%だった。英国の同時期のGDPは年率換算1.4%縮小した。
WSJによると英国ではここ2年間で初めて賃金上昇率がインフレ率を上回ったが、消費支出は減少した。日本ではご存じのとおり、賃金上昇がインフレ率に追いつかず、消費者は財布の紐を締めている状況が続いている。
日英の経済成長の停滞は欧州大陸や中国の景気低迷をもろに反映しているといえる。
そんな中で堅調なのは、アメリカ経済だ。アメリカの消費者は金利引き上げに対して抵抗力が強く、景気減速感がみられない。
OECDは今年に経済成長率について英国0.7%、ドイツ0.3%、米国2.1%と予想している(WSJによる)。
どうしてアメリカ経済は他に先進国より堅調なのだろうか?
色々な理由があるだろうが、一つはロシアによるウクライナ侵攻による経済的メリットを受けていることがあげられる。
分かり易い例では、欧州諸国がロシアからの天然ガス輸入削減で、天然ガスの価格高騰とそれに伴うインフレが進行している。また天然ガスの輸入をアメリカに求めたため、昨年アメリカは世界最大のLNG輸出国になった。
米国では新しく5つのLNGプロジェクトが立ち上がっているそうだが、それに対する海外からの直接投資が高まっている。
またアメリカの軍需産業から欧州向けの武器輸出も増えている。バイデン政権は今月初めにウクライナ向けに600億ドルの支援を行う追加予算案を議会に提出した。WSJによると、この内64%はアメリカの軍需産業に還流するらしい。
これらのメリットは必ずしもアメリカ経済全体に大きな影響を与えるものではないかもしれない。しかしセンチメンタルなことまで考えると世界的な政治地政学的なリスクの高まりが、欧州諸国や日本よりもアメリカに大きなメリットを与えていることは間違いないだろう。
このことは、地政学的なリスクがしばらく持続するとすれば、しばらくアメリカ経済が恩恵を受ける度合いが高く、米国株が他の国の株よりも上昇する可能性が高いことを示唆しているかもしれない。
もっとも株式市場はこのようなことを織り込んで既に米国株が割高圏で取引されている可能性もあるので、慎重に考える必要はあるだろうが。