少し前の読売新聞に『教員「残業代」3倍に 基本給13% 担任手当も拡充処遇改善案」という記事がでていた。
文部科学省がまとめた公立学校教員の処遇改善案の概要が判明したもので、残業代の代わりに一律支給されている「教職調整額」を、基本給の4%から13%に引き上げる方針で、実現すれば約50%ぶりの改定になるということだ。
私は教職問題について専門ではないし、また特別関心がある訳ではない。しかしこの問題について少し書いてみようと思ったのは、読売新聞の記事が「事実を伝えているにしろ、解説部分があまりに少なく、一般読者に正しい情報を与えることができるか甚だ疑問」と思ったからだ。
記事のタイトルだけを見て「残業代が3倍に増えるなら良いんじゃないの?」と思う読者もいるだろう。私は読売新聞にはもう少し突っ込んだ分析をして欲しいと思う。
具体的にいうと基本給の13%という残業代相当の手当は残業時間何時間に相当するのか?といった説明だ。
以下次の条件で自分で計算してみた。
- 基本給を月25万円とする(初任給の上限レベル)
- 1カ月の所定労働時間を160時間(20時間×20日間)
- 残業手当の割増率を25%とする。
この例では「教職調整額」は32,500円になる。これを1時間当たりの残業代1,963円(基本給÷所定労働時間×1.25%)で割ると16.56時間になる。
つまりこの教職調整額は月17時間弱の残業時間に等しい訳だ。一日平均では50分程度の残業時間になる。
問題は月17時間の残業が実態にあっているかどうかだ。記事には「文科省の22年度調査では、国が上限とする月45時間を超えて残業していた教員は小学校で65%、中学校では77%だった」とあるから、月17時弱の残業代では、教師側の大幅持ち出しになっている可能性は高い。
私は新聞記事は、一般読者が合理的な判断を行うような情報を提供するべきだと考えている。単なる事実だけならネットで記事を読む方が早いしコストもかからない。
さて折角教員の問題を書きだしたので、もう少し追加しておこう。
教員の給与の低さや燃え尽き症候群Burning outはアメリカでも大きな問題になっている。学校へのスマートフォンの持ち込み、人工知能を利用した生徒のずる、授業以外の雑務の増加、長時間労働、他の職業と較べた相対的な低賃金など、先進国に共通する問題が多い。
WSJのTeachers are burning out on the jobという記事によると、アメリカの教師のストレスの原因の上位は次のようなものだ。
「生徒の行動管理」(約45%)「サラリーが低い」(約37%)「教育以外の管理的な仕事が多い」(約32%)「長時間労働」(約26%)「担任する生徒のメンタルヘルスや福祉面のサポート」(約22%)といったところだ。
日本の教師のストレス原因も共通するものが多いが、日本の場合は「サラリーが低い」ということはあまり表に出ていないようだ。
日米の違いが、教師の給与レベルの違いからくるのか?あるは日本人の教師聖職観(今でもあるのか疑問だが)のようなものから来るのかは分からない。
しかし私は教師の方からもストレートに「こんな安い報酬で長時間勤務はやっていられない」と声を大にしても良いと思う。マスコミももっと色々な情報を提供して、読者に判断材料を与えるべきだと思う。