昨日(8月15日)米国株は続伸した。S&P500は1.6%、ダウは1.4%、ナスダックは2.3%だ。
これで米国株は8月5日の世界的な株価急落前の水準に戻った。
WSJは「3つの新しいデータが、米国経済のバックボーンである消費支出が持ち応えていることを示し投資家に安心感を与えた」と報じていた。
3つのデータとは7月の小売売上高、失業保険申請数、米国最大の小売業ウォールマートの好決算だ。
7月の小売売上高は、その前の月より1%増加した。これはエコノミストの事前予想(0.3%)を上回った。中身を見ると、システムの不具合で6月の売上が落ち込んだ中古車がその反動で売り上げを伸ばすなど一時的な要因もあるが、市場は素直を好感した。
ウォールマートは、第2四半期(5~7月)の米国内既存店売上が4.2%増加(アナリスト予想は3.4%)したことや業績予想を引き上げたことが好感され、株価は7%近く上昇した。大手小売業の中で同社は今年の株価上昇率でコストコと1,2を争っていたが、今回トップに立つことができた。
グーグルファイナンスのデータをそのまま転記すると今年の株価上昇率は、ウォールマート37.8%、コストコ34.8%だ。これはS&P500の16.8%を大きく上回る。またマイクロソフト、アップル、アマゾンといったマグニフィセント・セブンの主要メンバー(ただしNvidiaなどを除く)を大きく凌駕している。
さてWSJによると、このような経済データは連銀が9月のFOMCで政策金利を0.25%引き下げるだろうという期待を高めたと報じている。CMEデータによると、0.25%引き下げの見込みは77%で前日の64%より上昇した。これは経済のクッションのために0.5%の金利引き下げが必要と判断していた人の割合が減ったことによる。
債券市場ではベンチマークの10年国債利回りが3.821%から3.924%に上昇した。
ところで物価の沈静化と政策金利の低下は、政治にどのような影響をもたらすと考えて置いたらよいだろうか?
昔仕事でマーケットを見ていた頃、大統領選挙の前に住宅ローン金利が上がるようでは、現職大統領は選挙に勝つ見込みが覚束ないという話を聞いたことを思い出した。
そしておそらく物価上昇トレンドが続いているとさらに現職大統領は苦戦するだろう。
実際トランプ氏は選挙活動の中で、バイデン政権下で物価は滅茶苦茶に上昇したとかなりデタラメなデータを示して演説を繰り返している。
しかしここにきてインフレの鎮静化が顕著になり、しかもリセッションを避けながら、政策金利の引き下げを行うことになると、トランプ氏は経済問題を争点にし難くなるだろう。
経済環境がハリス候補に追い風になり始めたことは間違いない。
ところで大統領や首相などトップの政治家が短期的に物価や景気に大きな影響力を持っていると私は考えていない。
昨日岸田首相は自民党総裁選に出馬しない(つまり首相を辞任する)ことを表明した。国民の政治資金に関する疑惑を晴らすことができず、自民党への支持率を提げたことが原因だ。支持を提げた理由の中には、物価高や賃上げ問題に対処できなかったことも含まれているが、これをすべて岸田首相の責任にするのは公平を欠いていると私は考えている。
一人の首相にこれほど大きな問題を解決する力はない。実は日本経済の低迷の最大の原因は「同一労働同一賃金の原則」を貫徹できないことにある。この原則を徹底すると、雇用の流動化やゾンビ社員とゾンビ企業の撲滅が起こり、経済が活性化していく。ただしこれには既得権者の抵抗が強い。政治資金問題もこのような文脈で考える必要がある。
米国株高につれて日本株も値を戻しているが、経済のバックボーンである個人消費はどうだろうか?
イオンなど日本の大手小売業の株価パフォーマンスをウォールマートやコストコの株価に較べるとまことに貧弱だ。バックボーンが弱っていると実感せざるを得ない。これは余談だが私は日本の大きな問題は「リスク回避行動が続き過ぎる結果、最後に極端なリスク(ほどんどリターンの見込みのない自暴自棄的な行動)をとる傾向がある」ことだと感じている。