「一年の計は元旦にあり」という言葉が正しいとすれば、今年はかなり「相続」学にコミットしそうだ。というのは元旦、2日と学会員向けの社員総会や年会費納入依頼の発送作業に勤しんだからだ。テレビでも元旦にNHKが生活笑百科で相続問題を取り上げていた。今年は相続税が改正され、課税対象となる人が倍近く増えると予想されるので、相続問題に対する国民の関心が高まっているからだ。
さて我々が一般社団法人 日本相続学会を立ち上げたのは、約3年前。学会を立ち上げる時に英文名も作ろうということで、私が考えたのが、Japan Inheritance Associationという名称である。ついでに米英でも同様の学会があるかどうかと思い、インターネットで検索してみたが、ざっと見たところそのような学会はなかった。何故米英で相続学なる学問分野がないのか?ということについて、私は米英では日本ほど「相続争い」が社会的問題になっていないからなのだろう考えている。それは米英では遺言書の作成が一般的で、遺言書に瑕疵がない限り、粛々と遺産分割が行われるからだと私は考えている。逆にいうと米英の相続問題で紛争が起きるのは、遺言書の瑕疵、例えば遺言書を作成した時に被相続人の意思能力に問題があったかどうか?という場合が多いようだ。
また米英の場合は、弁護士やファイナンシャルアドバイザーなどが、遺言書やリビングウイルの作成をアドバイスして、相続人や家族の負担を軽減していることも「相続争い」を軽減していると私は考えている。米英では「相続」はパーソナルファイナンス学の一分野であると見ておいてそれ程間違いはないだろう。
さて我々の「相続学」も3年経って私はある程度、取り組むべき課題というか分野がはっきりしてきたのではないか?と考え始めている。
第一の分野は「ライフプラン」分野である。一般的に言われていることではないが、私は「良い生き方なくして円満な相続なし」と考えている。本人が「良い生き方」をしたからといって、必ずしも相続が円満に行われるという保証はないと思うが、例えば本人が家族に隠し事の多い生き方(概ね良くない生き方と考えてよいだろう)をしている場合は、相続争いが起きる場合が多いと言えるだろう。
「良い生き方」とは何か?という深入りすると話が長くなるので、ここでは「人生に目標を持って、充実し、安定した、そして家族に隠し事の少ない生き方」ということにしておく。そのような生き方をしようと考えている人は、何らかの形で人生設計を考えているはずだ。私は「相続学」の上流工程として「広い意味のライフプランニング」があると考えている。
そのライフプランニングに基づいて、「効率的に次世代へ財産移転」を考えるステージをここでは「相続対策」と呼ぼう。これが第二の分野だ。「効率的に」という意味は節税を考えるという意味ではない。次世代に役に立つ財産を役に立つ時に移転しようという意味だ。例えば死んでから子どもに財産を残すのではなく、自分が生きている内に子どもがより経済的に安定した生活を送ることができるように考えることが効率的な相続対策なのだ。この分野では遺言書や家族信託に詳しいスペシャリストが活躍するはずだ。
だが本人が良い生き方をしても、有効な相続対策を実施していても、なお争いが起きないとは断言できないだろう。相続人が100%本人の考え方を理解しているとは限らないし、本人は子供たちを平等に扱ってきたと信じていても、子供たちが「自分は差別されていた」と考えている場合もあるだろう。その場合相続争いが起きる可能性があるだろう。
だから第三の分野として「紛争解決」学的な分野も射程範囲に置く必要があると私は考えている。
金融機関等のパンフレットでも「相続対策はお済ですか?」といった文言を見ることが多い。だが中身を見ると大部分は「相続対策」ではなく「相続税対策」に関する説明である。広い意味の相続対策を考える前に「相続税対策」を考えるのは、馬の前に馬車をつなぐようなものだろう。相続税は削減できたが、家族には争いと管理に追われる資産が残されたというのでは、意味がない。
ライフプランの中で相続問題を考えていかないと、円満で円滑な相続は達成できないのである。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます