「乳房のむくい」と聞くと何か際どい話を想像される方がいるかもしれないが、そんな話ではない。
「乳房のむくい」とは、おかあさんから頂いたお乳の御恩を古人が表現した言葉である。
昨日新幹線で車内誌「ひととき」を読んでいる時、この言葉にであった。
一文を書かれたのは奈良県立大学客員教授(元春日大社権宮司)の岡本彰夫という人。
岡本さんは東大寺の総月の法会「修正会」でこの言葉に出会う。
大和言葉で唱えられる「教化」の一部を引用すると
「乳房ノ報イ 今日ゾ我ガスル 今ゾ我ガスル 今日セズバ イツカハスベキ 年モ経(ヘ)ヌベシ」
今から仏前に出て修正会に参列させて頂くのは、母からお乳を頂いた乳房の報いに御恩返しするためである。今しなければいつするのだろうか、そうこうする内に年を重ねてしまう・・・という意味だろう。
実は97歳になる母が最近京都の自宅で転倒し骨折して入院しているという話を2,3日前母と同居している弟から聞いた。
「命に別状はないから慌てて来なくて良い」という弟の言葉に安心し、出張など前から決まっていたスケジュールをこなし、少し落ち着いてから母を見舞おうと私は考えていた。
しかしこの言葉に出会い背中を叩かれた思いがした。私は私を生み、育ててくれた母の恩を軽く考えていたのではないか・・・
病床の母は不安だと思う。私に会いたいと思っているだろうと思うと飛んでいきたい気持ちになり、明日京都に行くことにした。
年老いた母の骨折は悲しい出来事だが、母の恩を思い起こさせてくれたとすれば、これも仏縁というものなのだろう。
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