金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

旅で読むには池内紀さんの本が良い

2014年10月04日 | 本と雑誌

仕事以外で私は余り一人旅をすることはない。山登りはグループで行くことが多いし、それ以外の旅はワイフと出かけることが多い。従って今のところ旅にでて本を読む、という機会はそれほど多くはないのだが、旅に出る時は池内紀(おさむ)さんの本を持って行くことにしている。

私より10歳年上の池内さんはドイツ文学者にして、エッセイスト。そして一人旅の名人だ。若い頃は山歩きも随分されたようだが、最近出版された本にはもう山歩きの話は余り出てこない。もっとも一昔前の「海山のあいだ」(オリジナルは1994年に出版)には幾つか山歩きの話も出ている。

最近読んだのは「きまぐれ歴史散歩」(中公新書)だった。この本の最初のエッセーは「旧石器あらわる」で、昭和21年に上州で「岩宿遺跡」という日本で初めて旧石器遺跡を発見した民間の考古学者・相沢忠洋(ただひろ)氏の話だ。この本の中では池内さんは相沢氏が明治大学考古学研究室に鑑定を依頼した「斡旋人」として取り扱われたことに抑制の利いた批判を述べるにとどめている。

しかし池内さんの「ニッポンの山里」(山と渓谷社)では、相沢氏を「シロウト」扱いし、「山師」だ「クワセ者」だと罵った当時の学会が手厳しく批判されている。

すこし引用してみよう。「専門は違うにせよ私自身、かって大学に奉職し、学会なるものに加わっていたのでよく知っているが、学者といわれる人はほんの少数の例外を除き、小心で、妬み深く、ボスに盲従する。ボスへの忠節を示すためにも(定説をくつがえす人を)容赦なく足蹴りにしなくてはならない」

旅の達人池内さんの日本の古い山里に愛情を注ぐ。そのエッセーは新鮮でそして優しさに満ちている。だが時々世の中の権威と呼ばれるものに鋭い批判を浴びせる。

このあたりのバランスが中々面白い。歴史と旅を文学にした本では司馬遼太郎の「街道をゆく」が有名だが、こちらはマクロの眼で歴史を論じているような気がする。これに較べて池内さんの切り口はもう少しミクロ的だ。

同じ本を何度も読み返すことは少ないのだが、池内さんの本に限っては私は何度も読むことが多い。特に「海山のあいだ」など文庫本がかなりくたびれるまで読んでいる。

その理由は池内さんの本の中に情報や知識を求めているからではないからだ、と私は考えていている。それよりも私にとっては池内ワールドに浸っていることが好きだから繰り返し、この作家の本を読んでいるのだと思う。

旅のエッセーは一つ一つの章が短く完結しているのも旅には向いている。列車待ちなどのスキマ時間で読むことができるからだ。

後5年か10年経って元気であれば、自分の池内ワールドを歩いてみたい、と私は考えている。といって池内さんが歩いたところをトレース積りはあまりない。むしろ池内さんが地形図を眺めて、次の旅先を見いだす方法論を活かしてみたいと私は考えているのである。

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