サラリーマンを長くやっていると当然親しい人や自分自身の転勤・異動・退職等に何回も遭遇する。また時には余り一緒に仕事をしたくない人と出会うこともある。そういう時私は「愛別離苦」と「怨憎会苦」というお釈迦様の言葉を思い出す。
愛別離苦(あいべつりく)や怨憎会苦(おんぞうえく)はお釈迦様が説いた8つの苦しみの中の一つである。難儀した時に我々は「四苦八苦する」というが、苦しみは合計12ある訳ではなく8つである。前半の四苦とは「生老病死」であり、残る4つの苦しみとは「愛別離苦」「怨憎会苦」(おんぞうえく)「求不得苦」(ぐふとくく)「五陰盛苦」(ごおんじょうく)である。この内「求不得苦」と「五陰盛苦」はやや難しいので今回は省略して「愛別離苦」と「怨憎会苦」について考えてみよう。
「愛別離苦」とは親しい人や愛する人と別れるつらさで、「怨憎会苦」とは嫌な人と出会って一緒に過ごさざるをえない苦しさである。ただし仏教で「苦」という場合「通常の苦しみ」という意味ではなく「人の力ではどうすることもできないことを苦という」という話を聞いたことがある。つまり仏教は人の世の中で親しい人と別れることや嫌な人と一緒に仕事をすることは避けることができないことであると教えているのである。別の言葉でいえば昔を懐かしむより新しい環境で前向きに生きよと教えているのである。
日本企業も合併や分社化等ダイナミックな動きを取るようになり、人との出会いや別れの機会も飛躍的に増えてきた。こういう中で「苦しみ」を減らす方法は淡白に生きることかもしれない。つまり「親しくなること」や「憎らしくおもうこと」が「愛別離苦」や「怨憎会苦」という苦を生む訳であり、淡白に生きていけばこれらの「苦」を避けることもできる訳だ。そういえば近頃の若い人は余り会社の連中と酒を飲まなくなったという類の話を聞く。これはまさに「親しみ」や「憎しみ」の機会を減らす方法であはあろう。しかしそれは又それで味気ない気がする話である。
いずれにせよサラリーマンとは「愛別離苦」と「怨憎会苦」の海を渡っていく因果な稼業であると大きな人事異動の度に思うものである。