金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

今何故藤沢周平ブームなのか?

2005年09月18日 | 本と雑誌

この10月1日から藤沢周平の「蝉しぐれ」http://www.semishigure.jp/top.htmlが東宝系で上映される。 いうまでもなくこの小説は藤沢周平の最高傑作であり私も数度本を読み返し、NHKの連続ドラマも見た。NHKの連続ドラマといえば今この作家の「秘太刀馬の骨」を内野 聖陽主演で連載中である。どうして今藤沢周平がこのようにブームになっているのか?これは藤沢文学の愛読者層である我々中年族が増えているからであろう。では中年族は藤沢文学の何に惹かれるのか?

一般論はさておき、私が藤沢周平に魅かれる理由はいくつかあるが今日は「人の世の桎梏と努力」「ものを持たないシンプルな生き方」について述べたい。

「蝉しぐれ」の終盤,主人公牧文四郎は初恋の人お福に彼女と結ばれなかったことを生涯の悔い」と述べる。それを聞いてお福は答える。「うれしい。でも、きっとこういうふうに終わるのですね。この世に悔いを持たぬ人などいないでしょうからね。はかない世の中・・・」そしてしばしの昔話の後二人は抱擁するのである。

殿の死後喪に服していたお福は落飾の前に文四郎に一度会うというリスクを取る。思うままに生きることができない封建時代の桎梏の中で精一杯生きる二人。その清冽な生き方が心を打つ。そしてこの長編小説の最後の一文が凛々しい。・・・・助左衛門(文四郎の現在の名前)は・・お福さまにあうことはもうあるまいと思った。・・・助左衛門は笠の紐をきつく結び直した。馬腹を蹴って、助左衛門は熱い光の中に走り出た。

江戸時代に比べれば何の桎梏もないような現代。では我々はそれほど自由に生きているのだろうか?答は必ずしもそうではないだろう。一見桎梏がないだけ人の欲望は広がり、広がった欲望を実現できないことに人は苦しむ。あるいはあふれるモノや人間関係に縛られ喘ぐ我々。この世は所詮はかないのである。

藤沢周平は随筆集「周平独言」(中公文庫)の中で「理由をはぶいて結論だけ言えば、私は所有する物は少なければ少ないほどいいと考えているのである。物をふやさず、むしろすこしずづ減らし、生きている痕跡をだんだん消しながら、やがてふっと消えるように生涯を終えることが出来たらしあわせだろうと時々夢想する。」(「書斎のことなど」)と述べる。

この感覚は兼好法師が徒然草で述べる「名利に使われて、閑かなる暇(いとま)なく、一生をおくるこそ、愚かなれ。・・・金(こがね)は山にすて、玉は淵に投ぐべし。利にまどうは、すぐれて愚かなる人なり」という感覚に近い。

私が藤沢周平に魅かれるのは「物よりも精神的な価値~「蝉しぐれ」では20年持ち続ける愛~を大事にしながら、この桎梏の多い世の中を精一杯生きる男女の姿」に心を打たれるからである。それはつい我々が見失いがちな精神の豊かさを重んじる日本の伝統文化にもしっかり繋がっているものである。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする