9月11日の総選挙に関する海外メディアの論評は日本の新聞にも紹介されている。私もネットでざっと英米の新聞・雑誌に目を通したが、日本のマスコミに較べて概ね素直に自民党勝利を歓迎しているところが特徴的だ。日本のマスコミはややもすれば自民党は勝利におごるな的論評があるが、海外メディアは圧倒的勝利を梃子に構造改革を一気に進めろ的論評が多い。この素直にものを見るところが私は海外メディアの一つの良いところだと感じている。素直にものを見ることと深くものを見ることは矛盾しない。素直にかつ深くものを見る姿勢を日本のマスコミはもっと学んで欲しい。
例えばファイナンシャルタイムズ紙は自民党国対委員長中川 秀直氏のコメント「今回の地すべり的勝利は英国のマーガレット・サッチャー元首相やロナルド・レーガン元米大統領の選挙戦での勝利に比較しうる。その時投票者は小さな政府を支持し、社会主義に反対した。このトレンドは20年遅れて日本に来た」を引用して日本に「小さな政府」改革が行なわれる可能性を示唆している。
もっともエコノミスト誌になると、その論調はもう少し複雑である。ポイントを見ておこう。
- 郵政民営化が推進されることは明らかだが、その他の改革はそれ程はっきり見えていない。
- 民主党がこのまま力を失うと構造改革上マイナスとなる可能性が高い。何故なら小泉首相は来年9月で辞任すると言っているが、その後継者が構造改革の意向やカリスマ性が低い場合、構造改革が頓挫する可能性は高い。つまり自民党は圧倒的多数を保つため、二大政党の相手方である民主党がしっかりしていないと「緩んでしまう」という訳である。
- HSBCのエコノミスト ピーター・モルガン氏によれば郵政民営化により簡保・郵貯は約200兆円の日本国債を売却し、企業融資や個人向け融資を行なうことになる。もっともそのインパクトは銀行や他の投資家が国債を買うので弱められる。
- 改革支持派はもっと多くの改革を求めている。彼等は郵政民営化の速度アップを希望しているし、郵貯・簡保の規模縮小や民営化前により厳密な競争ルールの適用を求めている。
- 年金や健康保険の改革の他、政府系金融機関の改革や税制改正、地方への権限委譲等で日本は構造改革のメリットを得る可能性がある。
- しかし郵政民営化は政治的・経済的に大きな一歩前進である長い歴史の中で初めて日本の指導者は重要な問題について正面から戦い、妥協を拒否したのである。そして投票者はその勇気に対して褒賞を与えたのである。
以下は私見であるが、自民党が衆院で絶対多数を取った責任は極めて大きい。つまり解散がなければ向こう4年間自民党は憲法改正以外のことは衆院の絶対多数を以って何でも行うことができる。それ故構造改革の全責任は自民党にかかってきた。
構造改革は英国の例を見ても10年はかかる大仕事であり、その間サッチャーは政権を取り続けた。小泉首相は来年9月に辞任する意向が強い様だが、構造改革を推進する真のリーダーを後継者に選べるかどうかが次の大きな課題になってきた。万一後継者が力量不足の場合、続投することも首相の責任の取り方かもしれない。さもないと日本丸の進路はぶれ過ぎることになる。
なお投資の観点から言うと、国債の市場消化促進が大きなテーマになってくるだろう。従って国債金利は上昇含みと見ておきたい。個人投資の観点からは変動利付国債の比率を高めたいところだ。