1958年に制定された国民健康保険法は61年に全国の市町村で実施され、今年で50年を迎える。エコノミスト誌はNot all smilesという記事で「日本の国民皆保険システムは世界が羨むところだが、問題は山積している」と指摘している。
記事によると東大の渋谷健司教授が、世界的に権威のある英国の医学雑誌ランセットの最新号に「過去に機能していた日本の健康システムは破綻し始めている。高度成長化でシステムの非効率性は許容できたが、今日の経済が停滞している状況ではもはや許容できない」という主旨の論文を掲載する。
1961年に皆保険制度がスタートした時に較べて65歳以上の人口の比率は4倍になっている。現在のヘルスケアコストはGDPの8.5%だが、マッキンゼーによるとこの比率は2035年には約倍に拡大する。
エコノミスト誌は日本の医療サービスの問題について、他のサービス業と同様小規模のプレーヤーが多過ぎ、それを改善するためのインセンティブがほとんどないと指摘する。
日本には医者にかかろうと思うとほぼいつでも医者にかかることができる(数時間待って3分間の診察という問題はあるが)という長所はあるが、一方緊急医療システムは貧困である。特に小規模の都市の場合、救急病院の空きベッドを求めて救急車が走り回り、時としてその間に患者が死ぬこともある。
エコノミスト誌は日本人はアメリカ人やフランス人に較べて心臓発作にかかる割合は4分の1だが、発作を起こした場合の致死率は倍だと述べている。
救急病院が少ない理由の一つとして、同誌は医者が仕事の割りに報酬が低い大病院で働くよりも、見入りの良い小さな診療所を開業することを好むことをあげている。
日本の医療費はGDP比率で諸外国と較べると相当低い。米国の17.4%は別格としてドイツは11.6%、英国は9.8%である。低い医療費のシワ寄せは公立病院や医師の数の問題に起きている。公立病院の4分の3は赤字だ。医師の数は先進国平均に較べて3分の1程度少ない。
英国の医療雑誌ランセットは「日本では医療費は厳しく規制されているが、医療の質は規制されていない」と述べている。
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日本の医療問題を指摘したエコノミスト誌だが、具体的な解決策は提示していない。思い切ったコスト削減と改革がないと、高齢化で収縮する社会への対応で苦しむだろうと抽象的な言葉で結んでいるに過ぎない。
そこで自分なりに医療費を抑制する幾つかのアイディアを思いつくままに述べてみたい。
一つは日本人の長寿の原因の一つである日本食等良い食生活の維持である。欧米人に較べて摂取カロリーが低く、肥満が少ないことが健康と長寿の要因だからこれを維持する施策を推進する。報酬の多寡は別として、働くことも日本人の生きがいの一部になっているから、これも推進したい。もっとも若年層の高失業率も問題だからバランスを取ることは簡単ではないかもしれないが。
次に混合医療を解禁するべきだろう。混合医療つまり保険内診療と保険外診療の組み合わせを認めることである。これにより医療給付費(医療費から患者の自己負担を除いたもの。つまり税金と保険料部分)を抑制しながら、高度な医療を希望者に提供しやすくなる。
最後は終末医療費を圧縮することを考えるべきである。簡単にいうと回復の見込みのない延命治療に歯止めをかけるべきである。
二番目と三番目の問題については議論の多い問題だが敢えて私見を述べた。