山登りという遊びは、大きな矛盾を内包していると思う。
山登りとは「山に登って降りてくる」という壮大な無駄を行うために、ハイテク技術を駆使して、そのプロセスから高度に無駄を省く活動だからだ。
それはアルプスやヒマラヤで近代的登山が始まって以来の宿命である。登山家はその時々の先端技術の成果を山に持ち込んだ。酸素ボンベ、ナイロン製のテントやザイル、ガソリンコンロなどだ。現在ではガソリンコンロはもっと便利なガスコンロに変わり、テントや防寒着はゴアテックスという防水性と透湿性を兼ね備えた繊維が全盛である。
また高度な通信技術がヒマラヤ遠征等で威力を発揮してきたことは実例を引くまでもなく明らかだ。
情報通信技術(ITC)は、一般の山登りやトレッキングにも随分役に立っている。昔は山岳専門誌のバックナンバーやいくつかの山岳団体の会報に当たりながら、山の情報(特にバリエーションルートや積雪期登山について)を得たものだが、今ではインターネットで簡単に情報を得られるようになった(信頼性の問題はあるが)。
海外トレッキングのガイドブック等は電子本で比較的安価に手に入れることができるようになった(購入したことはないが「山と渓谷」の比較的最近のバックナンバーも400円でダウンロードできる)。
今年は電子版による「山の本」の本の発行がかなり増えるのではないか?と個人的に予想している。
スマホの普及で山で役に立つ無料アプリも増えてきた。
一例をあげると国土地理院発行の地形図を見ることができる「地図ロイド」や自分が歩いたトレースを記録する「山旅ロガー」というアプリがある。これは機能的にはガーミン社のGPS(安いものでも3,4万円はする)とかなり競合するものだ(ただし電池の持ち時間とかHeavy dutyさにおいて大きな差がある)。
また「山カメラ」という山座同定アプリがある。これは名前を知りたい山に向けてスマホをかざすだけで画面に山の名前がでてくる優れものだ。
頂上で若い女性に「あの山の名前は何ですか?」と聞かれたとき、得意気に教えてあげるのが中高年男性登山者の密かな楽しみだったが、スマホにその楽しみを奪われる可能性大だ。
もっともスマホ頼りで紙の地図や磁石を持たない登山は極めて危険だ。「電波が届かなくなったら」「電池が切れたら」「スマホを落としたら」・・・・たちまち道に迷ってしまう。遭難事故の最大原因は「道迷い」ということだが、これからは「スマホ遭難」が増えるかもしれない。何よりも登山に出かける前に地図を読んだり、資料に当たったりする手間を省いて、ポッと山に入る人が増えると危険だ。
だがITCの限界や問題点をしっかり押さえた上で活用すると、登山はさらに便利で効率的かつ楽しくなると私は思う。
今年私たちの山岳会(「室町山の会」)で力を入れていきたいことは二つある。一つは「写真」や「行動記録」(紙ベースまたはログベース)を、会員間で共有するプラットフォームを確立することだ。というと大袈裟に聞こえるが、Google+だとかPicasaのようなクラウドアルバムを会員で共有して、撮った写真を各自がアップロードし、ダウンロードしたい写真を各自がダウンロードする、という仕掛けに過ぎないのだが。
合わせて会員スケジュールを共有する仕掛けも持ちたいと思っている。企業では予定表を役職員が公開し、空いているところには会議やミーティングが他者によってセットされるという仕組みを取っているところが多い。
趣味の団体の山の会で、そこまでやっていいのか?という問題はあるが、早い時期に着手したい課題だと私は考えている。