山田洋二監督の映画「小さいおうち」を観てきた。封切後3週間ほど経つが、雑用や関東地方の大雪などが重なって中々観に行くチャンスがなかったのだ。だが女中役を演じた黒木華がベルリン映画祭で最優秀女優賞を獲得したことにも背中を押されて出かけた次第。
まずザックと感想を述べると「色々な具材が入っていて少し懐かしい感じはするがほとんど生煮え」というのが私の印象である。
東京大田区の赤い屋根のモダンな住宅(平井宅)で女中として働き始めたタキはその家の一人息子の看病などを通じて、奥さんの時子(松たか子)に可愛がられていく。その頃南京が陥落(1937年昭和12年)。時局は泥沼化に向かっているが、平井宅に集まるおもちゃ会社の幹部たちは目先の勝利に浮かれていた。
そのおもちゃ会社の若い新入社員(吉岡秀隆演じる板倉)と時子は道ならぬ恋に落ちていく。もっとも映像は抑制的で肉感的な感じはしないが、一方何故二人が道ならぬ恋に落ちていくのか十分説明的でもない。
そもそもご主人(片岡幸太郎)と奥さんは仲が悪いのか?意思の疎通が不十分でご主人が一方的なところはあるが、戦前の家庭の平均から考えると普通程度ではないだろうか?
この夫婦は東京大空襲で赤い屋根の自宅を焼かれ、自宅前の防空壕で抱き合って死んでいったと映画は説明するので夫婦仲がひどく悪かったとは思われない。またご主人が浮気をしていた形跡もない。なのに何故奥さんは若い板倉に惹かれていくのか?それは板倉の持つ「初々しさ」「弱さ(徴兵検査は丙種合格、でも最終的には招集された)」「優しさ」が女心を揺さぶったのか?
二人の道ならぬ恋を知るようになったタキもまた密かな思いを板倉に寄せていた。そしてタキは奥さんがタキに託した板倉宛の手紙を渡さずに生涯の秘密として隠し持ち続ける・・・・・
というお膳立てなのだが、色々な具材は力不足で生煮えだと私は感じた。
まずタキが秘密とした手紙の重みだ。所詮人妻が間もなく入営する若い男を最後に一目見たいと呼び出す手紙なのだ。生涯の秘密にするほど重みがあるのか?というのが私の印象だ。
道ならぬ恋を可とするか不可とするかは別として、それが命を懸けたもので、世間体もはばからずというのであれば、それはそれなりに緊張感はあったのだが、「戦時下に人妻が喫茶店で若い男とひそひそ話をしているのは人聞きが悪い」という程度では恋愛話としては生煮え過ぎる。
この映画には通奏低音として「反戦」思想が流れているという人がいるが、その音はあまり私には響いてこなかった。むしろ日中15年戦争の最中の昭和12年頃の日本は意外に明るくモノも豊富だったことや、多くの庶民が目先の勝利に浮かれている様が印象深かった。
戦前にノスタルジーを感じる人にはある種のカタルシスをもたらす映画かもしれないが、私には生煮え感が強かった。