今日(6月2日)の朝刊紙面トップには、日本年金機構の職員の端末がサイバー攻撃を受けて125万件の年金情報が流出したというニュースが大きく掲載されている。
政治面では相変わらず「他国軍への後方支援で自衛隊のリスクは増えないと中谷防衛相が強調」という記事が出ていた。
この二つのニュースは一見何のかかわりもないように見えるが、私には政府さらには日本人の多くの人に共通する「リスク認識」の甘さということがあると感じている。
私は「集団的自衛権の行使」や「自衛隊の後方支援の拡大」について、支持するものだが、中谷防衛相の説明については明らかいに間違っていると考えている。
理由はごく常識的な判断による。それは後方であれ、戦闘地域に近づけば「不測の攻撃を受ける」可能性は高まる、というのは自明の理だからだ。その点では月26日の衆院本会議で「自衛隊の活動拡大に伴いリスクは残る」とした安倍首相の回答は正しいといえる。
リスクとは何か?それは「不確実性が増す」ということである。ごく常識的に考えてみよう。我々が海外旅行をする時、自宅周辺で暮らしているより、不確実性は増すという意見には大半の人が賛成するだろう。飛行機に乗れば、ごくわずかであるとはいえ、墜落の可能性はある。旅行者を狙ったひったくりにあう可能性も国内にいるよりは高そうだ(行く場所によりけりだが)。不慣れな食事でお腹をこわす可能性もある・・・などと不確実性は高くなる。この不確実性が高くなることを「リスクが増える」と呼ぶのである。後方支援を拡大しても、リスク量は変わらないというのは、詭弁以外の何物でもない。大事なことは、増えるリスク量にどのような対策で対処するということなのだろう。
年金機構の情報流出の一つの問題点は、「個人情報にはパスワードをかける」という内規が守られていなかったことにあるという。
一々パスワードを設定していては面倒だ、ということで内規が守られなかったのだろう。
だが問題はその根本のところで「便利なものにはそれなりのリスクがある」という基本認識が欠如していたことだ。一般に日本人には「便利なもの=安全なもの」と考える傾向が強いと言われている。おそらく色々なところでそのように教えられてきた結果だろう。だが原発事故を例に引くまでもなく、便利で運用コストが低いものにはそれなりのリスクがあると考えるべきなのだ。大事なことは、便利なシステムのメリットとそれにより増大するリスクを秤にかけて冷静に判断することなのである。
「年金情報流出はマイナンバー制度に逆風」などと新聞は書いているがこれも愚論だ。マイナンバー制度が、年金・税務の運営上有効な制度であることは間違いない。世界中の国で導入・運営されていることから見てそれは明らかなのだ。そのメリット面と情報流失の可能性が高まるというリスク面をきちんと評価しないといけない。
「便利なものは安全である」というのは、根拠のない性善説に過ぎないのである。そして一方「多少でもリスクのあるものは絶対ダメ
」というのは、子どもがダダをこねているようなものである。なぜなら便利なものを採用しないこと自体大きな「経済的リスク」を背負うことになるからである。
そういう意味では自衛隊の後方支援拡大に伴うリスク量の増加は、自衛隊の後方支援拡大を行わないことに伴うリスク量の拡大との対比で議論されるべきなのだろう、と私は考えている。