昨日(12月16日)の米国株は前日の反動でハイテクの売りが目立ち、ナスダックを筆頭に値を下げた。ボラタイルな相場が続くことは予想されているので驚くほどのことはないだろう。
懸念することがあるとすれば、金融引き締め策で労働市場に起因するインフレを抑制できるかどうかということではないだろうか?
先週の新規失業申請数は52年間で最低だったその前の週より1万8千件増えて206千件になったがまだ歴史的に低い水準にある。
求人数は求職者数を約400万上回っている(WSJ)。
米国の11月のインフレ率は6.8%と過去39年間で最高のレベルに達した。これは住宅、自動車など耐久消費財の需要が供給を大幅に上回ったことが原因で、その背景にはサプライチェーンの破綻や労働集約的業界からの労働者の離脱がある。
コロナウイルス感染拡大時に欧州などに較べ、米国で失業率が一気に上昇したのは、米国の雇用制度の特徴にある。企業は労働者を解雇し、解雇された労働者は相対的に手厚い失業保険の給付を受けた。これに対し、欧州ではコロナで余剰になった労働者を自宅待機などの方法で一時的に戦力外に置いた。経済が回復基調になると欧州の企業は自宅待機組を前線に復帰させることができるが、米国では失業者を再雇用する必要がある。
ところが再雇用しようと思っても、再雇用が容易ではない。現在米国では求人数が求職者数を約4百万件上回っていると言われているが、その多くは飲食業など労働集約的で低賃金の業種だ。それらの業界を辞めた(あるいは解雇された)人たちは単純に同じ業種に戻りたいとは考えない。より賃金の高い仕事を求めている。またコロナ感染リスクが依然として存在することからしばらく職場復帰を敬遠する人も多いようだ。
この結果労働需給はひっ迫している。
第3四半期の米国の時間給の上昇率は年率約6%だった。
パウエル連銀議長は以前はインフレは一時的だと述べていたが、現在はインフレは持続する可能性があるとスタンスを変えている。スタンスを変えた大きな原因は賃金上昇圧力がインフレを持続化させる可能性があると判断したことによる。
現在のアメリカの総労働力はコロナ以前より5百万人近く少ない。賃金引上げ圧力が緩和するには、労働参加率が高まる必要があるのだが、金融政策でそれが可能になるのだろうか?
金融引き締めはインフレが鈍化するだろうというマインドを消費者や企業に与え、買い急ぎを抑制する効果はあるだろう。だから消費財に対する需給が緩和し、インフレが鈍化する可能性は高い。
ただしそれだけで労働需給が改善するかどうかは分からない。
起こりうるもう一つの可能性は、アメリカ社会が労働力不足に対応するために、一層AIやロボット化を推進したり、サービスメニューの単純化を図るといった合理化路線を推し進めることだ。
仮に数百万人の一旦労働市場から脇道に逸れた待機組の何割かがリカレント学習等で新しい産業構造に対応する人材として復帰してくるならば、アメリカ経済はコロナ前より強くなる可能性が高い。
まあこれは楽観的過ぎる味方かもしれないが、日本などに較べるとアメリカが強くなる可能性が高いことは間違いないだろう。