昨日NHKのクローズアップ現代+で相続問題が取り上げられた。番組作成に関して多少協力してきたので、興味深く観ていたが、起承転結の「起」と「結」の間にはかなり飛躍があったと感じた。
「起」は現在相続争いが増加していて、遺産額が少ない相続でももめる事態が増えているというもの
「承」では介護負担が遺産分割に必ずしも反映されないなど相続法と現在の家族生活のずれが指摘された
「転」ではその対策の一つとして家族信託が取り上げらる
「結」では家族信託は介護や認知症の問題等を解決する「万能薬」的にまとめられた。
「起」と「結」を結ぶと相続争いを未然に防ぐ万能薬が家族信託という印象を受けた視聴者の方もいるのではないか?と多少危惧した。
確かに家族信託はある状況の相続にはトラブル防止の有効策である。たとえば幾つかの賃貸用不動産を持つ高齢の被相続人に認知症の可能性が考えられる場合などだ。現在の後見制度では不動産の売却など積極的な財産管理はできないので、被相続人が認知症になるとお手上げになる場合が多い。このような場合は有効策だろう。
ただし相続争いはこのようなケースばかりと限らない。むしろ多くの少額の相続争いは財産が居住用不動産だけで相続人の間で分割することができないケースが多いだろう。居住用不動産を売却して換価分割しようと思っても、そこに配偶者や子ども(長男が多いだろう)など家族が住んでいて売却が容易でないからだ。
相続争いの原因や症状は多様で、総てに効く万能薬はないと考えるべきだろう。そして万能薬とはいかないまでも、かなり汎用性の高い処方は「遺言書の作成」である。番組が「遺言書の作成」というより汎用性の高い処方にフォーカスすることなく、家族信託にフォーカスしたのは残念であった。
ただし番組作成の裏舞台を考えると同情できる余地がないでもない。つまり「遺言書作成」については当たり前すぎる結論でインパクトがないと考えられることや「遺言書作成」について一般市民の撮影協力が得られなかったことが考えらるからだ。
一方家族信託については推進団体が「家族信託経験者」を押さえていて、番組への登場をアレンジできたと思われる。
このことはこのようなテレビ番組を見る上で頭にとめておいてよいことだと思う。
つまり特段の悪意はなくても、作成者はトピック性を狙った番組構成をしたり、映像化しやすいトッピクを取り上げる傾向があるということだ。
つまりテレビ番組一つにしても、批判的に覚めた眼で観る必要があるということだと改めて認識した次第だ。
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