リーマンショックの前、資本増強をもくろむ欧米金融機関の中には次のようなフレーズが流行っていたそうだ。「上海、ムンバイ、ドバイ、グッバイ」。アジアと中東のソブリン・ウエルス・ファンド詣の掛け声である。
当時は先進国の金融危機を救済する「白馬の騎士」と考えられていたソブリン・ウエルス・ファンドだが、ニューヨーク・タイムズによると、投資して2年も経たない内に多くのファンドは利食いをしてグッバイを始めている。
最近のニュースによるとクエートが08年1月にシティグループに投資した30億ドルの資金に11億ドルの利益を得て回収した。大きな利益を得て投資回収を行っているのはクエートだけではない。シンガポール、カタール、アブダビの政府が設立したソブリン・ウエルス・ファンドも大きなリターンを得ながら資金を引き上げている。
多くのソブリン・ウエルス・ファンドが高いリターンを上げることができた理由は、金融危機の初期の段階で有利な条件を引出して投資したことによる。その後金融株がアナリスト達の予想を上回るペースで回復したことと、ソブリン・ファンドの出し手国内で政治的な圧力がかかったこともあり、彼らは利食いに回っている。
世界的な債券ファンド・ピムコの共同経営者のエル・エリアン氏は「彼らはパニックに陥って相場の底で売ることがなかった。そして彼らは今売ることができる」と述べている。
「天井買わずの底売らず」は相場の格言とはいえ、ソブリン・ウエルス・ファンドの手腕はしたたかである。アブダビ政府が100%保有するインターナショナル・ペトロリアム・インベストメント・カンパニーは英国のバークレーに20億ポンドの投資を行っているが、投資元本とほぼ同額の利益を実現するため大きな持分を売却するだろうと述べている。
推測を働かすとドバイワールドの金融危機を直接・間接に支援するためアブダビやドバイのソブリン・ウエルス・ファンドは持分の売却を考えているということだろうか?
ニューヨーク・タイムズは「長期保有の観点から投資を行っているのではシティやバンカメの持分を直ぐに売却する予定はないと9月に言っていたクエート投資庁が先週日曜日に持分の一部を売却したと発表したので市場は少し驚いた」と報じている。
売却がクエートの内部事情によるものなのかあるいはシティに対する投資判断によるものなのかは分からない。
ただ多くのソブリン・ウエルス・ファンドが金融株の売りに回りつつあるということは、彼らが目標リターンを達成したということだ。財政赤字拡大に悩む米国政府もTARP資金を回収するべく、資本注入行との交渉を進める見込みだ。これらの事情は金融株の重しになる。一般の投資家が国を相手に勝つことは容易ではない。むしろソブリン・ウエルス・ファンドに提灯をつける方が良いだろう。再び絶好のチャンスが巡ってくるかどうか分からないが。
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