5月の初めころ、韓国のマスコミでは本国出身の韓国人研究者が
史上初めて東京大学の「教授」に就任したことが話題になっていた。
正確には東京大学東洋学研究所付属東洋学研究情報センター
助教授に就任したヒョン・デソン氏(玄大松、45)がその人だった。
2004年、東大で博士号を取得した際の論文が「전후 한·일
관계와 영토문제(戦後の韓日関係と領土問題)」だったとのことで、
多くのマスコミでは彼を独島(竹島)問題の専門家、「独島博士」と
して紹介していた。
マスコミ報道から見出しをいくつか拾ってみる。
・・ ・・
・한국학자 독도논문으로 도쿄大교수로
韓国人学者、独島論文で東京大教授に
(ヘラルド経済 5月3日)
・ '독도박사' 한국인 日도쿄대 교수됐다
「独島博士」韓国人、東京大の教授になった
(韓国経済 5月3日)
・'독도' 박사학위 한국학자 도쿄대 교수 채용
「独島」博士号、韓国人学者東京大教授に採用
(連合ニュース 5月3日)
・ '독도 박사' 현대송씨 일본 도쿄대 교수에
「独島博士」ヒョン・デソン氏、東京大教授に
(中央日報 5月4日)
・・ ・・
また、竹島(独島)近海水域における日本の海上保安庁の
海底調査問題と関連しての「独島博士」の発言も紹介されていた。
・・ ・・
・ “세월 가면 독도는 우리 영토로 굳어져”
「時間が経てば独島の韓国領有は確定的になる」
(ソウル新聞 5月4日)
・ 현대송씨 "독도문제 국장급이 대응했어야"
ヒョン・デソン氏「独島問題は局長級の対応で十分だった」
(毎日経済新聞 5月4日)
・・ ・・
「ヲタク」は、一通り「独島博士」関連の記事には目を通してきた。
彼は「ヲタク」が好きなプサンの出身であり、海洋高校卒業後、
7年間の航海士生活を経て、28歳で韓国外大政治外交科に
入学した「晩学の徒」だそうだ。日本には外大卒業後に留学した。
しかし、彼の経歴以外では、特に「ヲタク」の関心を引くような
内容はなかった。
--- ところがである。日本の産経新聞(5月22日付け)に韓国発の
「驚くべき」外信記事が掲載されていた。
何と、「独島博士」は、実は、韓国社会の「独島ナショナリズム」を
「客観的」に検証している研究者だとのこと。経歴のみならず、
非合理なナショナリズムに批判的なその研究姿勢も、「ヲタク」から
見て、真に尊敬に値する研究者であるようだ。
それにしても、よくあることとは言え、韓国のマスコミの報道姿勢
には割り切れないものを感じる。氏の研究内容の正確な内容は
意図的に伝えないまま、「独島博士」を国威発揚のネタとして利用
した可能性が高い。
まあ、ヒョン氏を「売国奴」などと攻撃しなかったところに、せめて
もの「良心」を汲み取るべきなのだろうか?
一方、産経の外信記事も、韓国のいったい「どこ」でヒョン氏の
論文が話題になっているのか、一向に不明である点など、
ベテラン記者一流の作為なり隠された意図なりを感じざるを得ない。
「ヲタク」が確認する限り、少なくとも韓国のマスコミでヒョン氏の
独島ナショナリズムに批判的な論文が話題になった事実はない。
ここで、一応、産経新聞の記事を全文引用し記録しておく。
・・ ・・
■ 「独島領土は歪曲」 韓国人学者、異例の批判論文
【ソウル=黒田勝弘】日韓が領有権を争っている竹島・独島
問題をめぐって日本糾弾一辺倒の韓国で、歴史歪曲(わいきょく)を
含む一方的な情報注入による過剰な愛国主義や、日本に対する
過去イメージ偏重など韓国社会の現状を批判し、「国際的に通用
する客観的な事実と論理」の必要性を強調する学術論文が
発表され話題になっている。
このほど出版された『日本学叢書1/日本は韓国にとって何か』
(金栄作・李元徳共編、ハンウル社刊)に収録されている玄大松・
東京大学東洋文化研究所助教授の「韓国人の独島意識形成
過程とその構造」と題する論文で、小学生から大学生まで若い
世代に対する意識調査(2001年、約1200人を対象に
実施)を分析したものだ。“独島タブー”のある韓国で、韓国側の
主張や姿勢に対する韓国人学者の“批判”はきわめて異例だ。
調査によると「独島は韓国の領土」という意識は小学入学前に
48%が持っており、小学生では94%にもなる。この領土意識は
大衆歌謡、テレビ、教科書、教師、父母…などを通じて形成され、
このうち小学生など若年層ほど大衆歌謡の影響が大きく出ている。
大衆歌謡というのは1980年代以降、韓国で広く歌われている
「独島はわれらの地」という歌で、歌詞には島の位置から自然
環境、歴史的根拠、日本のことなどが詳しく織り込まれている。
とくに古代6世紀の新羅時代から韓国領だったという古文献の
ことまで登場するため、韓国国民の多くは歌の文句で島に
関する知識を得て、そう信じ込んでいる。
しかし論文は古代史の「三国史記」はもちろん、韓国が歴史的
根拠としてよく引用する中世の「東国輿地勝覧」や「太宗実録」
「成宗実録」なども鬱陵島の記録であって竹島・独島は関係なく、
歌の文句を含め「事実関係の歪曲」だと指摘している。
論文はまた、韓国マスコミの歴史問題や「独島」問題に関する
日本批判は「過酷なほどだ」といい、調査においてさえ「韓国
マスコミは事実報道より反日感情を扇動し」「両国の意見を
不公平に取り上げている」とする意見がかなり出ているとしている。
調査では領土問題で「日本の主張にも根拠がある」18%、
「日本を刺激すべきでない」9%、「国際司法裁判所で解決」25%、
「日韓共同管理」5%、「戦争の可能性」30%などといった
結果も出ている。
韓国では過去、韓国の立場を支持する日本の学者の主張や
研究はよく紹介されている。今回の論文は日本の主張を支持
するものではなく、韓国側の方法論を批判するものだ。論文は
結論で「韓国では戦後60年間、学界と言論界が一緒になって
客観的事実より植民地支配の記憶と反日感情に訴え、愛国
主義を前面に国民に誤った認識を植えつけてきた」と
述べている。
【2006/05/22 東京朝刊から】
・・ ・・
いずれにしろ、「ヲタク」は、「独島博士」の論文を直接、読んで
みたいと思う。
いくら「海外派」であるとは言え、ある意味で韓国ナショナリズムの
最大級のシンボルを正面から批判することは、研究者として、
かなりの勇気が必要なことだろうと思う。
--- 「話題」の論文が掲載された「日本学叢書1/日本は韓国に
とって何か」という書物。この夏、韓国を訪れた際にでも、是非、
購入したい本だ。
*「日本学叢書1~3」(2006年4月19日世界日報)
ちなみに、この「日本学叢書」を書評などで取り上げたメディアは
あるが、ヒョン氏の論文に関して紹介した記事は、「ヲタク」が
ウェブ上で検索した限り「皆無」であったことを書き添えておく。
(終わり)
← 応援のクリックをお願いします。