笹公人(ささ・きみひと)さんの第2歌集『念力図鑑』(幻冬社)を読んで、笑った、笑った。
〈SFマガジン〉でいくつか読んでいるはずですが、こんなにギャグっぽかったっけ。
〈SFマガジン〉でいくつか読んでいるはずですが、こんなにギャグっぽかったっけ。
本では1行9文字の縦書きですが、ここでは仕方なく横書きにさせていただきます。
- 尿療法の本立ちなら
ぶ書斎にて出された
ビールをじっと見つ
める
これはとてもわかりやすい。
こんなのも――
- メールでは加藤あい
似のはずだった少女
と寒さを分かつ夕暮
れ
「わたしってぇ、よく加藤あいに似ているとかぁ、言われるんですぅ」などと書いて来たんでしょうか。それで会ってみたら……。
本当はどういう顔立ちの少女だったのか、色々と想像せずにはいられません。
しかも2人で「寒さを分かつ」んですからねえ。普通のカップルなら「温もりを分かつ」ものだけど、いったいこのカレとカノジョはどうなっていたのか。実に気の毒。
次のは時節にぴったり――
- 信長の愛用の茶器壊
したるほどのピンチ
といえばわかるか
ワタヌキさんやカメイさんの顔が思い浮かんでしまいます。いや、ヤシロさんやキウチさんの方が、この場合は適当でしょうか。コイズミ信長の「茶器」とはもちろん……。
ユーモア主体のものを引用してみましたが、ホラーや幻想もたっぷり。フィクションの世界を短歌にして、こんなにも鮮やかにキャラクターや場面が浮かぶことに驚きました。
それはもちろん「本歌」となる物語が共有されているせいではあるのですが、これらの歌を詠んでいる主体そのものが虚構化されることで、作品が作者個人から離れ、多くの人に届きやすくなっているのだと思いました。普通の短歌は「私」=「作者」なので、これは方法論として実に画期的。
この手法を使って、さらにどんな試みが可能なのか、興味がわきます。