午後、銀座へ出て画廊「轍(わだち)」にて「畑農照雄遺作展」。
畑農さんが亡くなられたのは昨年8月2日のこと。もう1年3カ月が過ぎました。
雑誌掲載の短編に何度も畑農さんのイラストをつけていただいたことは、もったいなく、とてもありがたいことでした。学生時代愛読した早川書房の異色作家短編集やブラックユーモア選集の装幀が深く心に焼き付いていましたので。
今回の遺作展のカタログにある年譜を拝見して知ったのですが、畑農さんは長崎大学美術科を卒業後、12年間地元で中学校の美術の先生をなさり、ご結婚、娘さんも授かっておられた。しかし、1969年春、絵で身を立てる決心をして教職を辞し、単身上京なさったのですね。そして、翌70年から〈ミステリマガジン〉を皮切りにイラストの仕事をなさるようになり、ご家族も呼び寄せられた。
畑農さんの絵を認めて早川書房に紹介したのは、当時、毎日新聞に勤めておられた石川喬司さんだったとか。石川さんには、畑農さんの画風から早川が良いのではないかと判断なさったというような話をうかがったことがあります。
遺作展には、装幀をなさった数々の本のほかに、油絵、版画、デッサン、それに気に入られた詩句の書などがたくさん並べられていました。
油絵は故郷・長崎とお好きだったパリの風景が多い。もちろん、畑農さんならではの「道化師」や「人形」の版画やイラストも。
狭い会場でしたが、そこには畑農さんの温かく、なつかしい息づかいが満ちているように感じられました。
明日(3日)まで。