このシンポジウムは日本SF作家クラブ50周年記念行事の一環で、20日の広島を皮切りに大阪、名古屋と移動しながら開かれ、今回の東京大会でのテーマは「21世紀SFの夢――翻訳、日本、惑星的想像力」。
パネルディスカッション形式の発表はさらに2部にわかれていて、第1部には「世界の中のSF翻訳」、第2部には「歴史、日本、この不思議な地球」というタイトルがつけられていました。
写真は第1部の講演者たち。
左から、ロシア・東欧文学の沼野充義さん、司会を務めた翻訳家のデイナ・ルイスさん、総合司会も務めたSF作家クラブ事務局長で翻訳家の増田まもるさん、作家で『21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作選 時間はだれも待ってくれない』を編纂した高野史緒さん、フランス文学の新島進さん。
それぞれが専門とする各国文学の翻訳について、あるいは翻訳が日本語に及ぼした影響、最近の翻訳事情などについて、発言がありました。
こちらの写真は第2部の講演者たち。
左から、司会の慶應義塾大学教授・巽孝之さん、SF作家の谷甲州さんに夢枕獏さん、日本SFの紹介も手がけている作家で教育者の呉岩さん(中国)、作家のパオロ・バチガルピさんにパット・マーフィーさん(米国)、日本の大学で教鞭をとっているSF評論家のドゥニ・タヤンディエーさん(仏)。
それぞれ自分のSFについて、あるいは自国での活動、今回のシンポジウムの意味合いについてなどの発言がありました。
個人的な感想を大雑把に記してみます。
1970年の第1回シンポジウムが、日本、英米、ソ連の作家たちが初めて顔を合わせ、お互いの存在を知ることに意義があったとすれば、今回は互いの国のSFについての情報がある程度行きわたっているので、その上に立っての発言に意味があったのではないかと思います。
たとえば、中国の呉岩さんは、アメリカのSFに比べて、日本のSFが中国に紹介されにくい理由について、作家のエージェントの有無、中国のマーケットに関する知識、作家自身のプロモーションなど、具体的に指摘してくれました。
また高野史緒さんは、東欧やロシアの作家を招こうとして実現しなかったことに触れ、国柄の違いを実感したこと、自分の作品が「いかにも日本SFふう」でないことから、海外に紹介されにくいことなどを述べていました。
それと関連するかとも思いますが、バチガルピさんは、『ねじまき少女』は最初、大手出版社に持ち込んだが、東南アジアが舞台であることなどから「売れそうにない」と断られたこと。最終的には小さな出版社から出し、結果的には、売れ行きも評判も良かったことを紹介してくれました。
マーフィーさんも「今は大出版社よりも、志のある小出版社が大切。その点、ハイカソルという小さな出版社が主体となってアメリカに紹介されている日本SFのやり方はうまくいっているのでは」とまとめていました。
あわただしく設定されたという感はありますが、こういう催しが出来たことは日本SF作家クラブの成果といっていいでしょうね。いずれ全体の詳しい報告が公になることを願います。